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VRアバターが相手だと自分のことを多く話してしまう? 東京都市大などが検証Innovative Tech

» 2022年03月09日 08時00分 公開
[山下裕毅ITmedia]

Innovative Tech:

このコーナーでは、テクノロジーの最新研究を紹介するWebメディア「Seamless」を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。

 東京都市大学、TIS、岡山理科大学、工学院大学による研究チームが発表した論文「身体的アバタを介した自己開示と互恵性 ー『思わず話してた』ー」は、ビデオチャットよりも、VRアバター(特に外見が本人に似ているアバターよりも似ていないアバター)を介した場合の方が、人は対話相手に自分自身の事柄(思考、感情、体験など)をより多く話してしまうことを明らかにした報告書だ。

 自分のことを話す自己開示は、外見や振る舞い(視線・表情・ジェスチャなど)などの社会的手掛かりが少ない方がより促されると考えられており、実際にテキストを介したコミュニケーション(例えばテキストチャット)だと自己開示が促されやすいことが分かっている。

 そこで今回は、現実のユーザー自身の外見と似ている(社会的手掛かりが多い)アバターと似ていない(社会的手掛かりが少ない)アバターを用いて、ユーザーの自己開示に及ぼす影響を検討した。

 実験では、(1)ビデオチャット(下図video条件)、(2)ユーザーの外見と似ているアバター(同similar avatar条件)、(3)ユーザーの外見と似ていないアバター(同non-similar avatar条件)、の3つのコミュニケーションメディアを用いて比較した。アバターの頭部、上半身、腕、手指の動きはトラッキング機能で相手の動きと連動し、口の動きはリップシンク機能で発話時に合わせて開閉する。

実験時に対話を行う3つの条件
外見と似ていないアバター同士のVR内での対話シーン

 実験参加者は、互いを知らない54ペア108人(20〜59 歳)で実施した。4つの対話セッションの後、参加者には自己開示に関するいくつかのアンケートに回答してもらった。

 対話セッション中の参加者の各発話に自己開示スコアを付与し、3つの実験条件間で比較した。その結果、ユーザーの外見と似ていないアバター、ユーザーの外見と似ているアバター、ビデオチャットの順に自己開示が促されることを示した。

 興味深いのは、アバターの方が自己開示が促進されたにもかかわらず、2種類のアバターとビデオチャット条件間で、主観的な体験に差がなかったことだ。この結果は、アバターだと知らない間に多くの事柄をより話してしまうことを意味する。

 これらの結果を踏まえると、他者の率直な思考や感情を理解したい局面(例えば、管理職者が従業員の本音を知りたい時)などでアバターを活用することは、有効に働く可能性を示唆する。

 今回は対話相手の外見と似ていないアバターに特徴のない人型を採用したため、気持ち悪いと回答した被験者もおり、このことからも万人に受け入れられるアバターデザインにすることでさらに自己開示が促進されるのではと考えている。

 今回は視線や顔の表情のトラッキングを行っていないため、これらを取り入れた検証を今後の課題としており、また今回のような初対面同士の被験者を対象するのではなく、関係性のある人同士の検証も実施したいとしている。

 この研究は情報処理学会が主催するインタラクション2022で発表され、論文賞候補(論文賞の次点)に選ばれ、高い評価を受けた。

出典および画像クレジット: 市野 順子,井出 将弘,横山 ひとみ,淺野 裕俊,宮地 英生,岡部 大介. “身体的アバタを介した自己開示と互恵性 ー「思わず話してた」ー” 情報処理学会 インタラクション2022.



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