ITmedia NEWS > 社会とIT >

ロシアのネット遮断で“別のビットコイン”が生まれるは本当? 分断が生むブロックチェーンへの影響(2/3 ページ)

» 2022年03月24日 08時00分 公開
[藤本賢慈ITmedia]

分断は「3つの領域」で進む

 暗号資産およびブロックチェーンの領域で予想される分断を1つずつ整理していこう。

 第一にサービスレベルの分断だ。

 既にFacebookやInstagramなどのWebサービスがロシア国内でサービス停止となっているように、ロシア国内でのサービス提供を停止する事業者が現れる可能性がある。

 日本からロシア国内に拠点を置くサービスにアクセスできなくなることや、サービス内に存在する海外ユーザーの資産差し押さえが生じることも懸念される。

 第二にマーケットレベルの分断だ。

 暗号資産取引所では、世界各国の暗号資産マーケットデータを取得し、それをサービスに反映している。暗号資産の流動性を確保することや、取引所側のマーケットリスクを回避することを目的に取引所間でのカバー取引が常に行われている。

 こうしたマーケット情報が分断されることによって、投資家が損害を受ける懸念がある。

 そして、第三にネットワークレベルの分断だ。

意図的にハードフォークしないと「別のビットコイン」は生まれない

 ブロックチェーンは全世界のインターネット上で共通のノードアプリケーションを動かし、データをP2Pで相互同期することで維持されるネットワークだ。

 DNSブロックなどにより、海外のサーバにホストされたノードとの同期が絶たれた場合、ロシア国内のブロックチェーンノードには世界各国で発生したブロックチェーン上の取引が反映されなくなり、ロシア国内で共有されるブロックチェーン情報と、それ以外で共有されるブロックチェーン情報の間で分岐が生じる。

 また、世界中のマイナーが日夜マシンをフル稼働しようやく10分に1回実施できるブロック生成作業を、ロシア国内だけで処理することは極めて困難なため、ロシア国内ではビットコインの送金指示がいつまで経ってもブロックチェーン上に書き込まれない(送金に成功しない)、といった状況が生じる可能性が高い。

 ただ、このような分岐(フォーク)が発生することは、技術的には意図した正常な動作ともいえる。

 通常、ビットコインではフォークが発生した場合、ネットワークが同期されたタイミングで「最も長くブロックがつながっているチェーンを正当と見なす」という処理が入るからだ。その結果、正当でない情報は全て破棄され、そこで実現した取引情報は全て「なかったこと」として取り消される。

 この取消しによって損害を受けるリスクが高いのは暗号資産取引所やビットコインATMなどの「ビットコインとその他の資産との取引」を扱うロシア国内の事業者だ。

 ロシア以外の国でサービスを運営する事業者はグローバルのブロックチェーン状況を把握していれば問題はないが、ロシア国内でサービスを展開する事業者は入金・出金処理が取り消されるリスクを念頭に置いておかなくてはならないため、入出金の停止などの措置を取ることが予想される。

 もしもこうした事態を良しとせずロシア国内のマイナーが意図的にノードアプリケーションのバージョンアップを行うとしよう。すると、グローバルチェーンとロシアチェーンは同期を取ることがなくなり、従来のビットコインとは完全に独立したネットワークが誕生する。これが世にいうハードフォークだ。この場合、ネットワーク上のビットコインの価値は、それぞれのネットワークを支持するマイナーの比率によって分散されるケースが多い。

 以上のように、仮にインターネットが遮断されたとしても。グローバルのビットコインネットワークへの技術的影響は軽微で、ロシア国内のビットコイン送受金が正常に実行されなくなるにすぎない。また、ロシアチェーンのマイナーがハードフォークを実施したとしても、それがグローバルのビットコインネットワークに多大なマイナス影響を与えるとは考えづらい。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.