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「CPU最強 vs. GPU最強」──進化する将棋AIのいま プロに勝利した「Ponanza」から「水匠」「dlshogi」までプロ棋士向け最強将棋AIマシンを組む!(4/4 ページ)

» 2022年03月28日 17時00分 公開
[井上輝一ITmedia]
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「CPU最強 vs. GPU最強」の結果は

 こうして実現したのが、21年8月に行われた「電竜戦長時間マッチ」だ。第二回電竜戦TSECの優勝プログラムである水匠と、同大会B級優勝プログラムのdlshogiの対局であることから「CPU最強 vs. GPU最強」となるわけだが、ここまでの流れを振り返れば、連綿と続いてきたCPU計算によるコンピュータ将棋にニューラルネットワークを取り入れたソフトと、AlphaGo以来のディープラーニング系GPUソフトの頂上戦、という見方もできそうだ。

 その対局の様子はYouTubeの電竜戦公式チャンネルに上がっている他、前述で引用していた「りゅうおうのおしごと!」作者である白鳥士郎さんの全4回にわたるインタビューが詳しい。

 結果から言えば、第1局は水匠のバグに起因する投了でdlshogiの勝利、第2局は水匠の勝利、第3局はdlshogiの勝利だった。第2局は終盤の読み合いで水匠が千日手を打開し勝利、第3局は序盤からdlshogiが水匠に比べ高い評価値を付け、終始優勢ムードで勝利。

 「DL系は序盤に強く、一方で(NNUE系に比べれば)終盤に弱い」という特徴がよく現れた対局だったともいえる。

同格に見えるがマシンの価格に差 研究にはCPUとGPUどちらも必要か

 バグをノーカウントとすれば1勝1敗で同格とも取れるが、この連載としては「プロ棋士が研究に使えるか」に注目したい。それぞれの実行環境を見てみると、水匠は引き続き「Ryzen Threadripper 3990X」で臨んだ一方で、dlshogiはAWSのインスタンスによってNVIDIA A100×8基を用意していた。

 Threadripperも単体で約50万円と、CPUの最高峰に似つかわしい価格をしているが、仮にA100を8基購入しようとすると1000万円はかかる。インスタンスを契約するにしても、当初の山岡さんのように審査に落ちる場合もある。必然的に、個人で実行する場合には「GeForce RTX 3090」など個人が購入できるグラフィックスカードで実行することになるが、A100×8に比べれば当然棋力は下がる。

 それでも、RTX 3090などでdlshogiを動かして研究する意義はある。「DL系は序盤に強い」という特徴があるから、棋力が下がっても手筋の読み方がNNUE系とは微妙に変わってくる。逆に、終盤についてdlshogiでうまく評価できない部分は水匠などNNUE系の評価や候補手を参考にすればいい。

 つまり、いま将棋AIで研究をするのなら「CPUとGPU、どちらの環境も持っていた方がいい」といって差し支えなさそうだ。

 ちなみに長時間マッチの後、21年11月に開催された第二回電竜戦本戦では1位をGCT電竜、2位をdlshogiが独占。4位までDL系が占めた。興味深いのは3位に入った、みざーさんとやねうらおさんが開発した「ふかうら王」で、決勝こそA100×8で挑んだが初日のリーグは「Ryzen Threadripper 3970X」+「GeForce RTX 3090」×2+メモリ256GBという、デスクトップPCで実現可能なスペックで勝負に出た。

 初日の順位は2位で、水匠とdlshogiには白星をあげていた。ふかうら王は評価関数にdlshogiを取り込みながら、探索部にはやねうら王の知見を生かす方針としているようだ。

 そうであれば、なおさら“強いCPU”と“強いGPU”を両立した環境を用意したいもの。そこで筆者は、ある自作PC専門家に協力を仰いだ──。

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