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「CPU最強 vs. GPU最強」──進化する将棋AIのいま プロに勝利した「Ponanza」から「水匠」「dlshogi」までプロ棋士向け最強将棋AIマシンを組む!(2/4 ページ)

» 2022年03月28日 17時00分 公開
[井上輝一ITmedia]

CPUで高速動作するニューラルネットワーク評価関数「NNUE」

 elmoを含め、18年までの将棋ソフトの多くは王と任意の2駒の配置を評価する「三駒関係」(KPP)、あるいはそれに手番を加えた「KPPT」という評価関数を使ってきた。これは線形和(すごくざっくり言うと単純な足し算)で評価値を表せることから、局面と局面の差分を計算するのが簡単で、局面をたくさん計算するのに長けていた。

 ただ現実には、駒同士の特定の位置関係が常に同じ価値を持つとは限らない。こうした三駒関係の表現力の課題に目を付けて開発されたニューラルネットワーク型評価関数が「NNUE」だ。

NNUEを実装した将棋ソフト「the end of genesis T.N.K.evolution turbo type D」の評価関数(同ソフトの第28回大会におけるアピール文書より)

 NNUEは、医療機器ソフトウェア開発メーカーのザイオソフト(東京都港区)のコンピュータ将棋サークルメンバー、那須悠さんが開発した評価関数で、将棋ソフト「the end of genesis T.N.K.evolution turbo type D」に実装の上で第28回世界コンピュータ将棋選手権(18年5月)に参加。優勝こそ逃したが、5位という好成績で独創賞も受賞。この後、elmoや“CPU最強”「水匠」(すいしょう)などがNNUEをベースにした評価関数を実装していくことになる。

 那須さんが同大会に向けて書いたアピール文書によれば、NNUEは非線形なニューラルネットワークを扱いながらも、ある局面と次の局面の差分計算を処理の一部で利用したり、効率的なメモリアクセスパターンを採用したりすることで高速性を実現したという。さらに、CPUが実行できる並列処理命令の一つである「SIMD」演算で高速に計算できるように設計したとしている。

 NNUE登場以後について、ブログ「現代振り飛車ナビ」管理人の二歩千金さんは自身のブログで「複数のプログラマーさんの手によって非常に目まぐるしい早さで発展している」と驚きを見せる。18年5月にはやねうらおさんがやねうら王にNNUEをマージ。8月には水匠開発者のたややん(杉村達也)さんが「NNUEkai」という水匠向けのNNUE評価関数を公開した。

 たややんさんは第29回世界コンピュータ将棋選手権(19年5月)に向けたアピール文書の中で、自身を「学会などに出没するといわれている、素人を名乗る者ではなく、ガチ素人です」と紹介。本業は弁護士であることから「日常業務も計算や機械とかけ離れた、文系職業の最たるもの」として自身を“異世界転生ものの主人公”に例える。

 「現実はそう甘くないのか、それとも何かしらの爪痕を残せるのか、ご期待ください……ではなく、全く期待せず見守ってください」と文書を締めていたが、ふたを開ければ同大会では7位に、翌年の第30回(コロナ禍によりオンライン開催)では優勝を果たした。

 この第30回大会の際の、水匠の実行環境が「Ryzen Threadripper 3990X」とメモリ64GBというマシン構成だった。

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