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Appleの空間オーディオがDolby Atmosから逸脱し始めた いったい何のために?(1/3 ページ)

» 2022年03月31日 08時51分 公開
[山崎潤一郎ITmedia]

 Appleの空間オーディオが進化した。

 macOS Montereyが12.3にアップデートしたことで、「ミュージック」アプリがダイナミックヘッドトラッキングに対応した。

 「ミュージック」で、Apple Musicの空間オーディオ音源を試聴したところ、たしかに頭の向きを変えると音の定位が移動する。ちなみに、iOSとiPad OSは、15.1以降で、映画など映像系コンテンツにおいては、macOS Monterey公開時から対応済みだった。

photo 「ミュージック」アプリのDolby Atmos音源再生においてダイナミックヘッドトラッキングに対応した

 macOSの「ミュージック」アプリではこれまでグレーアウトされ選択できなかったメニューバーのコントロールセンターの「空間オーディオ」メニューに「固定」「ヘッドトラッキング」の項目が追加されている。

 ただ、macOSの「ミュージック」でヘッドトラッキングによる空間オーディオを楽しむためには、再生環境が限定されてしまう。AirPods Pro、AirPods Max、AirPods(第3世代)または Beats Fit ProといったAppleかBeatsのイヤフォン・ヘッドフォンを利用しなければならない。

photo macOS 12.3で対応するAppleのイヤフォンを接続するとコントロールセンターの「空間オーディオ」から「ヘッドトラッキング」を選択できる

 映画やゲームといったスクリーンに正体するコンテンツとは異なり、イヤフォンで聴く音楽には明確に「正面」が存在するわけではない。基本的に顔が向いている方が正面だ。そのためヘッドトラッキングをオンにして音楽を聴くと、ちょっとばかり混乱してしまう。

 例えば、顔の向きを変えたことで、正面で歌っていた歌手が突然右耳方向に移動する。それは正しいことでもあるようでしかし、没入中の音空間から受ける印象が突然変化し、少しオーバーな言い方をすると音楽が放つ世界感が変わってしまう。奇妙なリスニング体験だ。

photo スクリーンと正対する映像コンテンツにおいてはヘッドトラッキングの効果は抜群だ。しかし、音楽の場合、突然楽器の定位が変わると戸惑う

 ただ、この辺りの違和感についてはAppleも心得ているようで、顔の向きを変えてから数秒後には、音像がリセットされ自動的に元の定位に戻る。で、そこから顔の向きを変えるとまた同じことがくり返される。定位がリセットされるのは映像コンテンツも同じ。

 ヘッドトラッキングを含め、空間オーディオを堪能するためには、楽曲がDolby Atmosに対応していなければならないのは言うまでもない。対応楽曲は徐々に増えているので、今後楽しみは増えると思う。ただし、現状は、ステレオ版からコンバートしたと思われる音源が主流で、空間オーディオ「らしさ」がそれほどでもないものも散見される。

 音空間の構築は、それぞれの音源の提供者が決めることなので、すべての「空間」が統一的になる必要はないのは理解している。筆者の場合、仕事でピアノを録音する機会が多いので、Apple Musicの「魅惑のピアノサウンドを3Dで」というプレイリストでさまざまなアルバムを聴き比べてみたのだが、空間の作り方に制作者の考え方が現れており実に興味深い。

photo 純クラシックやネオクラシックなどのピアノ作品が集められている。シンプルな音源なので音作りの個性や考え方が鮮明に感じられる

 一部のピアノ協奏曲を除いて、ピアノソロという極めてシンプルな構成の空間オーディオ音源だけに、音作りの個性や考え方がモロに感じられ、聴き比べが楽しいのだ。

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