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Final Cut Proの「声を分離」がすごい Mac Studioユーザー以外でも使える3つの新機能小寺信良のIT大作戦(1/3 ページ)

» 2022年04月18日 19時36分 公開
[小寺信良ITmedia]

 Appleは4月22日、Mac Studio用に最適化されたFinal Cut Pro 10.6.2をリリースした。Final Cut Pro(以下FCP)はApple純正の編集ツールということで、毎回新プロセッサにはいち早く対応する。同時に合成ツールのMotionとエンコーダのCompressorもアップデートしている。

 ただそのアップデートは非常に小刻みで、前回のアップデートが2021年11月の10.6.1であった。今回はMac Studio対応が目玉とはいえ、ほぼほぼバグフィックス並みの数字アップである。最適化されたことによる重たい映像クリップの再生や合成といったグラフィックス面が期待できるところだが、実は高速化以外の部分でも有用な新機能が搭載されている。

 筆者はMac Studioユーザーではないが、それでもメリットの大きいと感じる3つの新機能にフォーカスしてみたい。

AIによる音声抽出機能

 今回はサンプルとして、筆者がある意味ライフワークとしている畑仕事の様子をお伝えするVlog「コデラ家のハタケ」というシリーズを収録、という体の素材を用意した。撮影はiPhone 12 miniで、外部マイク等は使用していない。

 iPhoneでの収録の難点は、音声収録が非常に風に弱いというところである。いわゆる「フカレ」に弱いため、多くのVloggerは屋外での音声収録には別途マイクを用意したり、レコーダを別途用意したりと工夫している。ただ、思いついてすぐその場で撮影、という機動性を活かすとなると、やはりiPhone一発撮りといった状況は発生する。

 FCPでは早くから「オーディオ解析機能」が搭載されており、音声に問題がある場合にはアラートが表示されるようになっている。オーディオ解析横のマジックワンドアイコンをクリックすると、「ラウドネス」、「ノイズ除去」、「ハムの除去」といった機能を組み合わせて、問題を自動的にフィックスしてくれる。

 今回の素材では、「ノイズ除去」の部分にアラートが付いている。つまり、音声にノイズが多く入っているという警告である。人の声とそれ以外を分離する方法としては、早くからノイズリダクション系の技術が発達してきた。FCPの「ノイズ除去」もそうした機能の1つだが、永らくアップデートされておらず、クオリティー的には数年前から止まっている。

photo Final Cut Proではオーディオ解析により、問題をフィックスしてくれる機能がある

 これまでもノイズ除去を使って何度も整音してきたが、ノイズレベルは減少するものの、完全に取れるまでには至らなかった。また強くかけると、フランジャーがかかったような音になってしまうため、あまり強くかけられなかった。

 今回音声処理で新たに搭載されたのが、「声を分離」という機能である。上図の「オーディオ補正」のところにある2つめのチェックボックスだ。現在リリースノート以上の詳しい技術情報が得られていないところだが、機械学習によって背景ノイズのレベルを調整し、音声の明瞭度を上げるという。

 従来のノイズリダクションは、ノイズ側を検出して落とす技術だったが、今回は人の声を機械学習させ、それだけを残すという方向である。同様のアプローチとしては、ソニーがこの2月に発売したオープンタイプのイヤフォン「LinkBuds」がある。こちらは5億サンプルを超えるAI学習を行ない、その成果を使って音声だけを抽出する。今後、機械学習による音声の分離は、大きな技術トレンドとなりそうだ。

 FCP上で「声を分離」にチェックを入れると、スライダーが表示される。このスライダーで分離度を調整するだけという、シンプルなUIである。

photo 「声を分離」は量のスライダーを調整するだけ

 では実際に収録したサンプルで効果をチェックしてみたい。最初は収録したそのままの音声、2回目は従来の「ノイズ除去」を100%で適用した状態、3番目が新機能「声を分離」を100%で適用した状態である。

 もともとはかなりiPhoneのマイクが風にフカレており、ボコボコといった大きなノイズが入っている。「ノイズ除去」ではこうしたフカレノイズは除去できないが、「声を分離」ではかなりきれいに除去できているのが分かる。

音声処理の比較

 一方で、フカレによって喋りの音質にまで影響が出ている部分はそのまま残っており、こうした音の変形まで修正されるわけではない。しかしよく聞くと、背景にある車のノイズなども問題にならないレベルで消えている。

 従来は別途プラグインなどを購入して処理しなければならなかったわけだが、純正ツールだけでクリアできるようになったのは大きい。フカレはなるべく手でマイクをカバーするなどして押さえつつ、「声の分離」を使うことで、かなり良好な状態まで持っていくことができるだろう。

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