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検閲員の過労死で見えた、中国ネット検閲のリアル クラウドとAIでは足りない理由(1/4 ページ)

» 2022年04月20日 18時50分 公開
[山谷剛史ITmedia]

 2022年の春節、大手動画サイト「ビリビリ」で1人のスタッフが過労により亡くなった。

 武漢オフィスで動画検閲の仕事で勤務していた25歳の男性「暮色木心(仮名)」氏だ。中国のインターネットは検閲を通すことが知られているが、各社が専用スタッフを抱えて検閲を行っている。氏が亡くなる直前には連休の春節にも関わらず、2交代制で連日12時間ディスプレイをにらみ続けたという。

photo 出展:時代財経

 この悲しき事件をトリガーとして見えてきた中国の検閲事情をまとめてみた。日本人が中国のネットサービスを利用するとき、どこまでチェックされ解読される可能性があるかのヒントも書いたのでお付き合い願いたい。

 中国ではビリビリや中国向けTikTokの「ドウイン(抖音)」やインターネット大手「テンセント(騰訊)」の「テンセントビデオ(騰訊視頻)」など中国向けのさまざまな動画サービスが普及し、ほとんどのインターネットユーザーが使っているが、一方で中国は言論の自由が制限されていることでも世界的に知られている。

 当然動画も検閲対象だ。検閲の対象は政治的にNGな話題がまず挙がりがちだが、ポルノコンテンツや暴力的コンテンツが多い。

 インターネット検閲の仕事は10年以上前は知る人ぞ知る仕事であり、その実態を紹介する報道を見ることはなかった。しかし最近では地方に大手インターネット企業のオフィスを誘致し、そこで検閲員を多く雇えるという面がカジュアルに報じられるようになった。

 例えば「上海で勤務していたが、Uターンして地方で検閲員として働くようになって、生活費の高さに困ることはなくなった」といった具合だ。

 中国のインターネット業界は花形業界である一方、近年では残業がひどすぎて過労死がしばしば報じられるなど、ブラック労働でも注目されている。

 IT企業のブラック労働が分かるメッセージが外部に漏れればすぐに広がるし、酷いものは社会問題としてテレビなどでも取り上げられる。

 そんな昨今の中国の事情もあり、暮色木心氏の過労死によりネット検閲員の労働の実態を掘り下げる記事がいくつも出てきた。ビリビリだけでなく、中国のネット業界の検閲員の労働環境はいずれも似たようなものだということが分かってきた。

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