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検閲員の過労死で見えた、中国ネット検閲のリアル クラウドとAIでは足りない理由(2/4 ページ)

» 2022年04月20日 18時50分 公開
[山谷剛史ITmedia]

過酷なTikTok監視

 暮色木心氏の事件の前にはこんな報道があった。

 TikTokを運営するバイトダンスの成都オフィスで、スタッフの「珊珊(仮名)」氏は毎日平均1分30秒の長さの動画を1390本以上もチェックする。完了するまでは帰れず、その能力は4段階評価され、評価が2カ月連続で最低だと辞職を強いられるという厳しい環境だ。

 バイトダンス勤務というと聞こえはいいが、開発部隊ではなくコンテンツチェック部隊とあり、毎日単調な反復作業を延々とこなすだけで、自己成長も昇進もまるで期待できない。親族や友人が「知人がバイトダンスで勤務しているけど知り合いか」などと聞いてきても、花形の本部勤務ではないので知る由もなく、メンツもあってどの部署で勤務とは言えず、ごまかすしかない。

 何よりも給料が大手ネット企業勤務の割には非常に安い。求職情報サイトによると、ビリビリの南京勤務で学歴は専門学校卒以上が必要で月3200〜4000元、バイトダンスの重慶勤務で月2400元で、出来高と残業を加えて4000〜6000元程度だ。

 数万元稼ぐ開発部隊と比べると非常に安いが、スタッフ数と給料をかけ合わせると、1年で1億5000万元から2億3000万元はコストがかかる。英語や日本語のスタッフの求人も求職サイトからは一応は見つかるものの少なく、給料も安ければ求める言語能力も日本語能力試験2級程度と高くないので、日本人同士がスラングや言葉遊びでやりとりしようものなら対応しきれないのではないかと思う。

photo 日本語検閲人材が5000〜8000元で募集されている

 中国政府系メディア「環球網」の記事によれば、2020年にはビリビリが約2400人、中国版Instagramと呼ばれる小紅書には1000人余り、バイトダンスは2万人を超す検閲スタッフがいたという。暮色木心氏や珊珊氏のような境遇の人が何万もいるわけだ。

 何万もの検閲スタッフが疲労の中、目を光らせコンテンツをチェックしている。

 テキストコンテンツについては、テキストデータから自動で分析し、フィルタリングをかけ、問題がありそうな書き込みを拾い出すという手法があったが、今では音声や映像までも分析できるAIがある。中国で鍛え上げられたAIはどこまで有能で、日本語での配信も含めてどこまでチェックできるのだろうか。

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