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イーロン・マスクが唱える「自由なTwitter」の功罪 買収がもたらす“変化”とは(2/3 ページ)

» 2022年04月30日 10時00分 公開
[西田宗千佳ITmedia]

自由は混沌も呼び込んでしまう

 この点は、筆者もマスク氏に同意する部分がある。指針がクリアになること、それが作り上げられる過程が可視化されることは重要だ。

 ただ、自由であることは混沌を呼び込むことでもある。

 Webでの「医療情報」の例を挙げよう。

 Webでは元々自由な発言ができる。その中で過去には「たくさん参照され、たくさん見られているものが、信頼性が高い情報である可能性が高い」という発想で進められてきた。

 だが、根拠のない(もしくは悪影響のある)健康情報が、健康食品や健康グッズなどの販売、特定の主張の拡散などを目的に増えていき、ネットで正しい情報を見つけるのはどんどん難しくなっていった。Googleはサーチエンジンの最適化を進めたが、コロナ禍の中では、結局「正しい情報を出す」ことを最優先に、「医療情報パネル」を作ることになった。

 筆者はこの判断を支持しているが、一方で、医療情報を提供するサイトがGoogleに集約されてしまい、多様性が減っている……という見方もできるとは思う。

 多くの人々は自由な利用を求めているが、一方で、自由には責任も伴う。だが、多くの人が「責任ある使い方」「責任ある使い方のための努力」を求めているか、というと、そうでもないのだ。多数にとってのトラブルを防ぐためには、恣意的な運用が必要になってしまうこともある。

 では、「自由になったTwitter」は、そこにどう答えていくのだろうか? 今の、指針が見えない形が正しいとは思わないし、一度混沌にまみれてから再び秩序が構築されていくのかもしれないが、果たしてその過程に人々は耐えられるだろうか。

 ドナルド・トランプ元大統領はTwitterを恣意的な政治宣伝に活用し、そこから「米連邦議会議事堂襲撃事件」が起きた。結果として彼のTwitterアカウントは永久凍結されたわけだが、これもまた、「一定の線を超えたことによって恣意的な運用が必要になった」例だろう。トランプ元大統領はTwitterに戻ってくるつもりはないようだが、「自由」になることでまた似たような混乱が起きるのではないか……と危惧する人々はいる。

 マスク氏がトランプ支持かはよくわからないが、「Twitterが言論の自由を検閲したため、『Truth Social』(ひどい名前だ)が存在する」とツイートはしている。

 現状、Twitterは「言及が多いものがさらに目立つ」構造になっている。そのことは、本来の対話よりも「極端な論争」を加速する部分がある。「自由化」は一時的に、そこに油を注いでしまうかもしれない。一方、オープンソース化や基準の明示などは、偏りを是正し、課題の解決につながるかもしれない。

 影響を読むのは難しいが、「改善」と「悪化」、双方の可能性があることは理解しておく必要がある。

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