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防災無線が地デジに 地域の災害情報が変わる小寺信良のIT大作戦(1/2 ページ)

» 2022年04月30日 09時25分 公開
[小寺信良ITmedia]

 子供の頃、夕方になるとどこからともなく「夕焼け小焼け」が流れてきた記憶がある方も多いのではないだろうか。公園や役場、学校脇などに立てられたスピーカーから流れてくるわけだが、今でも昔と変わらず流れてくる地域もあるはずだ。

 これは市町村防災行政無線、いわゆる防災無線の動作確認のために行なわれている。あのスピーカーは有線でつながっているのではなく、無線システムなのである。この放送網のメインの役割は、地域独自の防災情報をスピーカーで放送することだ。「こちらは、防災○○(市町村名)です。」から始まる放送は、例えば光化学スモッグ発令注意報であったり、迷子のお知らせであったりといった具合に活用されている。

 われわれが子供の頃は、当然アナログ無線だったわけだが、2005年ごろからデジタル無線へ置き換わり始めた。だがそこからもう15年以上が経過し、設備更新のタイミングになっている市町村も多い。

 無線放送設備の維持更新は、なかなか大変である。まず基地局には送出システムが主副2セット、電波塔、構内電話交換機との接続装置などが必要となる。受信側もアンテナ、電源、受信器、スピーカー、アンプ、遠隔制御装置などがいる。エリアが広ければ、中継基地も必要だ。それらの借地料もいる。また移動送信局として、可搬型のシステムや車載型システムも必要になる。

 これらはすべて、その自治体が管理・運営している。費用は国や都道府県からの補助もあるが、基本的には自治体負担となっている。大阪府が公開している令和2年度の防災行政無線管理費予算の内訳を見ると、毎年の運営だけでおよそ3億3000万円にものぼる。更新費は、人口4万人規模で12.8億円程度かかるとされており、大都市はもちろん、エリアが広い広域市町村圏の負担はとんでもなく大きい。

 こうした運営・設備更新の負担を軽減すべく、政府は新しいシステムの構築へ舵を切り始めている。伝送網として「地デジ」を利用しようというのだ。

自治体が放送網を持たないアイデア

 地デジを使うといっても、テレビ番組の中に災害放送が流れてくるイメージではない。自治体が災害・避難情報をIP網を使ってテレビ局に送り、地デジの電波に乗せて放送する。受ける側は、専用の受信器を使ってそれを受信するというイメージだ。したがって自治体は、受信器は配る必要はあるものの、自前で無線送信設備を維持・運営する必要がなくなる。

photo 地デジを使った災害放送のイメージ(総務省消防庁公開の資料より

 送られてくるデータは、消防庁が拡張した災害情報記述言語「消防庁EDXL」となる見込みで、テキストだけでなく、動画や音声、制御信号も伝送できる。受信装置は、今のところテキスト表示画面付きのポータブルラジオのようなものが想定されている。

photo 屋内受信器の仕様(総務省消防庁公開の資料より

 これをテレビのアンテナ線につないでおくか、フルセグで動画を受信するわけではないのでロッドアンテナ程度でも受信できるようだ。この端末を各家庭に配付する、という算段で検討が進められている。

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