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部門を跨いだクラウド活用の“お邪魔虫”、どうまとめあげる? 横串差す組織「CCoE」設立のコツ「CCoE」設立時の注意点 部門を跨ぐクラウド活用の勘所(後編)(2/2 ページ)

» 2022年05月11日 09時00分 公開
[伊藤利樹ITmedia]
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CCoEのカタチは3つ 立ち上げ時、それぞれの注意点は

 実際にCXOの後ろ盾と、熱意のあるリーダーを取り込めれば、後はCCoEを立ち上げるだけだ。組織としてのCCoEは、大きく分けて「バーチャル型CCoE」「独立型CCoE」「システム部門内CCoE」という3形態のいずれかである場合が多い。

 いずれも発足当初は「クラウド利用に向けた社内の交通整理やルール整備」が大きなミッションになる。しかし、形態ごとに立ち上げ時や発足後の注意点があるので、それぞれ解説する。

バーチャル型CCoE

 バーチャル型CCoEは、クラウド利用に関する関連部署からキーマンを集めたワーキンググループ型の組織だ。実際に部署が存在するわけではないので、組織体として立ち上げやすい点がメリットになる。

 一方で、注意点も2点生まれる。1点目は、メンバーが全員兼務になる点だ。業務負荷など、本業とのバランスに気を配らなければならない。

 設立時には、メンバーが所属する組織のマネジャー層に、いかにCCoEへの理解があるかもポイントになる。ただし、全員が兼務になることから、いかにマネジャー層が理解を示しても、活動の時間がそう多く取れない点も課題だ。

 成功しているバーチャル型CCoEは、ワーキンググループの軸となる部署が社内にあるケースが多い。軸となる部署のメンバーがほぼCCoE専任として全体をリードするのだ。例えば過去に見た成功例では、DX達成を目的とした事業部門がワーキンググループの軸になることが多かった。この形を取れるかが勝負になる。

 2点目は、正式な部署ではなくあくまでワーキンググループである都合上、チーム内で決めたルールを全社のルールにするための仕組みをCCoE組成当初から設計しておく必要があることだ。

 よくある対処法としては、CCoEで決定したクラウド利用に関するルールを、システム部門が作成するシステム開発ルールの別冊にしてしまうことが挙げられる。CXOの後ろ盾を得られていれば、よりこの仕組みも整えやすくなるだろう。

独立型CCoE

 独立型CCoEはその名の通り、CCoEを独立した部署として組成するケースだ。メリットはメンバーが専任として動けるので、活動時間が十分に確保できる点だろう。

 注意点は、独立すると他の部署の現状をつかみにくくなり、関係者を巻き込みにくくなることだ。巻き込めた関連部署が少ないと、全体最適の目線は築きにくく、クラウド活用の壁を取り除く手間が増える。

 どこかの部門の意見に偏ったCCoEとなってしまうと、会社全体の理解を得ることはさらに難しくなる。逆に、多くの部署が巻き込めなかったとしても、全体最適の視点さえ築くことができれば問題はない。いかに会社全体にとって最適な判断ができる体制を維持するかが独立型CCoE成功のカギになる。

システム部門内CCoE

 システム部門内CCoEは、システム部門内のチームとしてCCoEを組成するケースだ。メリットは独立型CCoEと同様に、リアル組織で専任担当として動けるので、活動時間の心配がいらない点だろう。

 注意点は、システム部門内のチームなので、どうしてもシステム部門の考え方を優先した施策に走りやすい点だ。

 例えばセキュリティを管理する部門内にCCoEを作った場合、クラウドのリスクに注目し過ぎた結果、セキュリティガバナンスを意識し過ぎたルール作りをしてしまい、せっかくクラウドを導入しても使いにくいものになってしまう。

 このケースは全社最適ではなく、事業部門の目線が持てていないことになる。DX達成をゴールに見据えておらず、クラウドを使える状態にすることがゴールとなってしまっているわけだ。

 同じような失敗をしている企業は多い。筆者の知る事例では、クラウドの操作、その一切合切をCCoEが実施する──というルールを敷いている会社が最たるものだった。

 ユーザーはクラウドの操作をするために都度申請書を書かねばならず、ちょっとした間違いを直すためにも数営業日が必要だ。これではトライアンドエラーができず、クラウドの強みであるアジリティが発揮できないことから、成功にもつながりにくい。

 しかし「クラウドが使える状態」にはなっているので、CCoEのゴールが「クラウドが使えること」だと、こんな失敗が起こり得るのだ。対策としては、事業部門の目線を持ち、DX達成を目的に対応する必要がある。事業部門とのコミュニケーションを取ってルールの策定に当たれるのであれば、システム部門内にCCoEがあっても問題はないだろう。


 どの形を取るにしろ、経営層の後ろ盾、そしてDXに向け熱意あるリーダーの存在は欠かせない。逆に言えば、まずはこの2つに取り組むことこそ、CCoEを成功に導く最大の注意点といえるだろう。

著者紹介:伊藤利樹

NTTデータのエンジニア兼、コンサルタント兼、ビジネスディベロッパ―。セキュアにクラウドを利用するソリューション「A-gate®」を企画・開発し、世の中に展開している。また、クラウド利用体制の構築支援をライフワークのように実施。クラウドの基礎知識から利用時に決めるべきこと、作るべき体制、守るべきルールを伝え、世の中のクラウド利用を推進している。『DXを成功に導くクラウド活用推進ガイド CCoEベストプラクティス』の著者の一人である。

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