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米NVIDIAなど、眼鏡サイズのVRヘッドセット開発 フルカラー3D画像を表示Innovative Tech

» 2022年05月12日 07時00分 公開
[山下裕毅ITmedia]

Innovative Tech:

このコーナーでは、テクノロジーの最新研究を紹介するWebメディア「Seamless」を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。

 米NVIDIAと米スタンフォード大学の研究チームが開発した「Holographic Glasses for Virtual Reality」は、眼鏡に近いフォームファクタを備えた超薄型ニアアイディスプレイだ。2.5mmの厚さの光学系を備え、フルカラーの3D画像を提供する。

ウェアラブルプロトタイプを着用している様子。SLMの駆動ボード、バッテリー、光源が取り外されている
ウェアラブルプロトタイプを横から見た画像。厚さ2.5mm

 VRヘッドマウントディスプレイ(HMD)の大きなデメリットは嵩張る点だ。この問題は、マイクロディスプレイの画像を拡大するレンズが必要という、光学系の原理から生じている。この設計では、マイクロディスプレイとレンズの間の距離を比較的大きくとる必要があり、その分が前方の出っ張りを作っている。

 この課題に対して注目を浴びたのがパンケーキレンズだ。VR HMDで使用するレンズの多くは、フルネルレンズを使用しているが、パンケーキレンズを用いるとディスプレイとの距離を縮めることができる。そのためパンケーキレンズによる薄型VRデバイスも複数登場している。しかし、2D画像しかサポートできず、限られた画像解像度しか提供できない制限がある。

 そこで今回は、2Dまたは3D画像を表示するウェアラブルニアアイディスプレイ(重量は60g、対角視野22.8度)を提案する。パンケーキレンズを用いたデバイスの半分以下の厚さ(2.5mm)で実装できる。通常のVR HMDでは、レンズとマイクロディスプレイの間にある隙間を利用して画像を拡大するが、開発したシステムはこの隙間を必要としない。

 ハードウェアは、幾何学位相(GP)レンズ、位相のみの空間光変調器(SLM)、導波管(Waveguide)の3つを主要部品とする。目に近い方からGPレンズ、導波管、SLMの順に配置する。SLMの駆動ボード、バッテリー、光源が別に必要で、これらは今後の課題となる。

 入射するレーザー光は導波路に結合され、導波路の中を進み直接偏光素子で偏光されSLMに供給される。SLMはその背後に小さな画像を作り、それをGPレンズが拡大する。この導波路は非常に薄く、平面波や球面波を提供するようには設計されていないため、 画像合成のためのPupil-HOGDと呼ぶ新たなアルゴリズムを実装している。

システムの概要図
ベンチトッププロトタイプとウェアラブルプロトタイプの概要

 ベンチトッププロトタイプの出力では、2Dおよび3D画像において良好な結果が得られたが、ウェアラブルプロトタイプの方は画質とコントラストがやや悪い結果となった。

ベンチトッププロトタイプの2D(上)、3D画像(中央、下)の出力結果
ウェアラブルプロトタイプの出力結果

 ウェアラブルプロトタイプの視野角は対角22.8度であり、市販のVR/ARディスプレイと比較して小さいが、この視野は主にSLMのサイズとGPレンズの焦点距離によって制限されており、この2つは別の部品で改善することが可能である。2インチのSLMと焦点距離15mmのGPレンズを用いれば、最大120度のFOVを実現できるという。

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