このコーナーでは、テクノロジーの最新研究を紹介するWebメディア「Seamless」を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。
米カーネギーメロン大学が開発した「Dual-Shutter Optical Vibration Sensing」は、同時に演奏するそれぞれの楽器を一度に個別収録できるマイクシステムだ。理論上はオーケストラの演奏でも、各楽器を全て別々に録音できる。
指向性が強いマイクでさえ、音を収録すると周囲の環境音や壁に跳ね返ったノイズを排除しきれない。ましてや複数楽器を同時に演奏した場合、単一の楽器だけをクリアに捉えることは非常に難しい。通常のマイクロフォンでは複数楽器による混合音しか録音できない。
今回は同時演奏でも単一の楽器だけを収録できるコンピュータビジョンベースのマイクシステムを提案する。このマイクシステムは2台のカメラとレーザーで構成される。通常のマイクロフォンと違い、演奏中に振動する楽器自体にレーザー光を当て、その反射をカメラで捉えて音を復元する。
具体的にはまず、振動を発生させている対象物(例えばギターなど)にレーザー光を照射する。振動に応じたランダムな干渉パターン(スペックルパターン)が発生するので、デュアルカメラを駆使してローリングシャッターとグローバルシャッターで撮影し画像化する。2つの映像のスペックルパターンは異なるため、この差をアルゴリズムで計算し振動に変換して音を復元する。
通常のマイクロフォンとは違い、その楽器の振動のみを入力とするためその他多数のノイズを排除できるのがシステムの利点だ。また、これまで通常のマイクロフォンでは困難であった低振幅も捉えることができる。音が小さくても楽器さえ振動していれば音を復元できるからだ。
もっというと、人間では知覚できない高周波(超音波)の振動も捉えることができる。そのため今回の成果は、音を捉えるというよりも、高速で微小な振動を捉えることができた技術といえるだろう。
ギターやスピーカーなどのそれ自体が振動する対象物だけでなく、間接的に振動する物でも捉えられる。例えば、人の声で振動したスナック菓子の袋にレーザー光を当てることで、人の声を復元するといったことが可能だ。
応用例としては、他の楽器の干渉を受けずに個々の楽器の音をモニターして、合奏全体を微調整する。製造業で工場内の個々の機械の振動をモニターして、メンテナンスの必要な兆候を早期に発見するなどが考えられる。
Source and Image Credits: Mark Sheinin, Dorian Chan, Matthew O’Toole, and Srinivasa G. Narasimhan. “Dual-Shutter Optical Vibration Sensing”.
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