このコーナーでは、テクノロジーの最新研究を紹介するWebメディア「Seamless」を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。
ドイツのFree University of BerlinのAnna Abalkina氏とRetraction Watchが発表した「Retraction Watch Hijacked Journals Checker」は、クローンジャーナル(詐欺をするために本物を模倣して作られた偽の学術誌)を一覧にしたリストだ。
Googleスプレッドシートでまとめられており、150以上のクローンジャーナルが掲載されている。リスト閲覧はこちらから。また一覧にないジャーナルで怪しいWebサイトを見つけた場合は、報告できるフォームも用意している。
クローンジャーナルとは、本物のジャーナルサイトを巧妙にまねした偽のジャーナルサイトを指す。研究者に論文を投稿させ、著者から出版料をだまし取ることを目的としている。
クローンジャーナルは10年ほど前から存在しており、タイトルやISSNなどのメタデータをコピーして本物のジャーナルとほとんど見分けがつかないよう巧妙に作られている。投稿した論文は査読もされず(もしくは偽りの査読)、出版のための編集作業も(ほとんど)行われず著者から料金だけを徴収する。
クローンジャーナルは詐欺行為もさることながら、加えて広範にわたり長期的な被害を及ぼす。通常、査読あり論文は説得力のある内容として扱われ、引用され世界中で次の研究に生かされる。
そのため査読が不十分だと、引用したその後の論文の妥当性を揺るがすことになる。よってクローンジャーナルは詐欺行為だけでなく、学術界をかき乱し研究者たちを侮辱する行為ともいえるだろう。
さらに2021年Retraction Watchは、COVID-19研究に関する世界保健機関(WHO)のLibraryに、クローンジャーナルからの380以上の論文が含まれていると発表した。このように信頼ある機関が引用し市民に間違った影響を与えるケースもある。
執筆現在、Googleスプレッドシートでまとめられたクローンジャーナルのリストは150サイト以上を掲載している。クローンジャーナルのタイトル、URL、ISSNが記述されており、研究者やその他関係者はクローンジャーナルかを照合することができる。また怪しいジャーナルを発見した際に報告できるフォームも用意されており、密告も可能だ。
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