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岐路に立つテレワーク、不況で労働者の“踏み絵”に 監視ツールとしてのメタバースにも注目ウィズコロナ時代のテクノロジー(2/3 ページ)

» 2022年07月06日 07時00分 公開
[小林啓倫ITmedia]

強化されるテレワーク社員の監視

 一方でテレワークを継続する企業にも、従業員の管理を強化しようという動きが見られる。以前この連載でも紹介したように、企業がテレワークを導入するのをためらう、テレワークを中止しようとする大きな理由の1つが「従業員がサボるのではないか」という不安だ。

 興味深いことに、これは従業員の側も不安に感じる点の1つで、彼らは「上司や同僚から仕事をサボっていると思われていないだろうか」と懸念している。こうして両者の懸念が一致した結果、多くの企業で「テレワーク監視ツール」が導入されつつあるとの調査結果が出ている。

 例えば、米国で21年9月に行われた調査によれば、テレワークで働く従業員を抱える企業のうち60%で、何らかの従業員監視ツールが導入されていた。その具体的な中身は、Web閲覧やアプリケーション使用の履歴を取るソフトウェア(76%)、従業員が使うPCのスクリーンショットをランダムに撮影するソフトウェア(60%)、キーロガー(44%)などが占めた。

米国で行われた調査の結果

 導入の理由としては、従業員がどのように就労時間を過ごしているかを把握する(79%)、従業員が決められた就労時間いっぱい働いていることを確認する(65%)などとなっており、「サボっていないか」をチェックするのが最大の目的であることが明確になっている。

 こうした監視ツールを導入していることを、企業は従業員側に伝えているのだろうか? 監視の効果という観点からは、通知は行わない方が望ましいだろう。何をチェックされているかが明らかになれば、悪意のある従業員がそれを回避する策を思い付く可能性もあるからだ。

 しかし従業員を信頼し、逆に従業員の信頼を勝ち得るという観点からは、「隠れて」監視することは避けた方が望ましい。実際に先ほどの調査では、大多数にあたる86%の企業が、監視ツールの導入を通知していると答えている。しかし残る14%は通知に踏み切っていないわけで、信頼よりも監視に重きを置く企業も一定数存在しているのである。

 前述の通り、従業員は長引く不況によって、雇い主である企業に対して弱い立場に置かれるようになっている。仮に導入されている監視ツールに不満がある、あるいは「監視ツールの存在は公表されていないが、うちの会社なら導入しかねない」などの懸念がある場合も、従業員は企業の方針を受け入れざるを得ないだろう。

従業員監視ツールとしてのメタバース

 そして今、この「テレワーク中の従業員の監視」という観点から、メタバースに大きな関心が集まっている。メタバースは3次元仮想空間内でさまざまなコミュニケーションを可能にするアプリケーションだが、Meta(旧Facebook)などがメタバースを仕事空間として利用できるようにしようと取り組んでいる。

 実際にMetaが思い描くようなサービスが実現されれば、「テレワーク中にWeb会議するため一時的にオンラインになる」などという状況は過去のものになり、従業員は常に仮想空間、あるいは現実空間と仮想空間が混ぜ合わされたMR(Mixed Reality、複合現実)空間にログインして働くようになるだろう。

 メタバースで働くことは、従来のオフライン作業や、ネットワークに接続したPC上での作業、あるいはWeb会議と比べて圧倒的な違いがある。それは収集されるデータの量だ。これまでのPC作業であれば、前述のように端末へのログイン・ログオフ時間、使用したアプリケーションやアクセスしたWebサイトの履歴、キーストロークのログなどを収集するのが関の山だった(それでも従業員の作業状況について多くのことを把握できるが)。

 しかしメタバースの場合、従業員はデジタル情報で構成された仮想空間の中で作業するため、文字通り彼らの一挙手一投足までもデータを取ることが可能になる。つまりより徹底した従業員の監視が行えるわけだ。

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