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「マイグレ風」とは何か──“iPhone不正購入”の手口から見る携帯ショップビジネスの構造的課題(1/3 ページ)

» 2022年07月11日 14時00分 公開
[佐野正弘ITmedia]

 「マイグレ風」によりスマートフォンを不正に安く購入したとして、埼玉県さいたま市の男女が逮捕されたとの報道があった。同様の手口では初立件という。そもそもマイグレ風とはどのような行為を指し、なぜそのような不正が実行されてしまうのだろうか。現在の携帯電話市場環境からその背景を確認してみよう。

「マイグレーション」で認められている値引きを狙った不正

 2022年7月8日、3G携帯電話からの買い替えを装ってアップルの「iPhone」などを不正に安い価格で購入したとして、さいたま市の男女が詐欺容疑で逮捕されるという事件報道があった。一連の報道によるとその手口は、従来型の携帯電話(いわゆるガラケー)に4G対応のSIMを挿入して携帯電話販売店を訪れ、3Gの契約だと偽ってiPhoneなどを安価に購入、不正に利益を得ていたそうで、容疑者の自宅からは多数の従来型携帯電話と4G契約などのSIMカードが押収されたという。

 その逮捕に至る経緯も、報道によると容疑者がその手口をSNSで解説していたことがきっかけとされており、その手法が「マイグレ風」として紹介されていたとのこと。「マイグレ風」の「マイグレ」は「マイグレーション」の略でもともと移住や移転などを示す言葉だが、携帯電話業界では「巻き取り」と同義の、顧客に新しい通信規格などへの移行を促す行為を示す言葉として使われることが多い。

 携帯電話の通信規格は約10年に1度、性能が高く電波利用効率がよい新しい規格へと移行する傾向にあり、現在であれば主流の「4G」から、より新しい規格である「5G」への移行が進められつつある。その一方で古い規格のサービスを終了させ、電波を新しい通信規格で再利用することでネットワーク全体の性能を上げている訳だ。

 新しい規格の導入に当たっては、古い規格の通信サービスを利用しているユーザーを、新しい規格のサービスに移行させるマイグレーションが実施されるのが一般的だ。現在は古い通信規格となった「3G」のサービス利用者を、4Gや5Gに移行してもらうマイグレーションが活発になっており、2022年3月に3Gサービスを終了させたKDDIはこの数年間、3Gからのマイグレーションにかなり力を入れていた。

2022年3月末で3Gサービスを終了させたKDDIは、既に携帯電話市場から撤退したカシオ計算機の「G'zOne」ブランドの端末を復活させるなどして、3Gを使い続ける人の乗り換えに力を注いでいた

 今後はソフトバンクが2024年1月下旬、NTTドコモが2026年3月31日が3Gによるサービスを終了させる予定なので、両社は今後3G利用者のマイグレーションを強化してくるものと考えられる。だが通信規格の移行は携帯電話会社の都合でもあり、長年同じサービスを不満なく、愛着を持って使い続けている人にはメリットがないという現実もある。

 そこで携帯各社はマイグレーションを進めるに当たり、対象者にスマートフォンなどの端末を大幅に値引いて販売することで移行を促すことが多い。端末の大幅値引きは電気通信事業法で禁止されているが、実は「通信方式変更/周波数移行に対応するための端末」は例外的に0円未満にならない範囲での値引きが認められており、マイグレーション対象者には大幅値引きが可能なのだ。

総務省「電気通信事業法の一部を改正する法律の施行に伴う関係省令等の整備について」より。通信契約にひも付く値引きは税別2万円までに規制されているが、新規契約が終了した通信方式の利用者を移行させる際は例外的に0円未満にならない範囲での値引きが認められている

 ゆえに今回の詐欺行為は、3Gからのマイグレーションで例外的に認められている端末値引きを狙ったものといえるのだが、本当に3Gからのマイグレーションで端末を安価に購入するのであれば詐欺には当たらない。逮捕されるに至ったのにはマイグレ風の“風”の部分にあるといえよう。

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