先にも触れた通り、報道によると容疑者は4GのSIMを多数所持しており、4GのSIMを従来型の携帯電話に挿入することで3Gを契約しているように見せかけ、店頭でiPhoneなどに買い替えたとされている。つまりマイグレ風の“風”は4G契約の回線を3G契約と偽ることであり、店員をだまして端末を安く購入したことが詐欺行為に当たるとして逮捕されるに至った訳だ。
だが現在契約している携帯電話会社のショップでそのような行為を働いた場合、契約者がどのサービスを利用しているかすぐ確認できるので、詐欺を見抜くのは簡単だ。そこで容疑者が用いたのが番号ポータビリティ(MNP)である。番号ポータビリティで他社に転出する際、携帯電話会社は自社のシステムで転出元の携帯電話会社の契約を確認することはできない。
もちろん店頭ではさまざまな方法で元の契約を確認するはずなのだが、中にはチェックが甘い店舗もあるようだ。また一部報道によると、店舗側が契約獲得ために不正を黙認しているケースもあるとのことで、そうした店舗を紹介する人物もいるとされている。
あくまで報道からの情報を基にしたものなので推測にすぎない部分もあるが、容疑者はそうした人達のネットワークをうまく活用し、チェックが甘い店舗を探してターゲットを絞り、詐欺行為を働いていた可能性が高いと考えられる。
ではなぜチェックが甘い店舗が生まれるのか? と考えると、2019年以降の市場環境変化と、マイグレーションを巡る顧客争奪戦が影響しているのではないかと筆者は見る。2019年の電気通信事業法によって、通信契約とセットで端末を販売することが禁止されるなどしてユーザーの乗り換え障壁が極限まで取り除かれた結果、携帯電話会社は顧客の契約を縛って安定収入を得ることがほぼできなくなり、結果顧客を他社から奪い合う競争が激化したのである。
そうした状況下で、3Gの終了が近づき各社のマイグレーションが進められたことで、携帯各社は他社の3G契約者を“奪う”行為に力を入れるようになった。実際KDDIの3Gサービスが終了する2021年後半から2022年初頭にかけては、競合他社のショップでKDDIの3G利用者を狙い、「auのガラケーが終了します」と訴えて自社への乗り換えを促すポスターが多数見られた程だ。
それだけ激化している競争環境下では、契約獲得が優先されチェックが甘くなるケースが出てきてもおかしくはない。今回の詐欺行為はそうした競争激化の隙を突いたものといえ、規模も大きかったことから逮捕に至ったといえそうだ。
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