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「マイグレ風」とは何か──“iPhone不正購入”の手口から見る携帯ショップビジネスの構造的課題(3/3 ページ)

» 2022年07月11日 14時00分 公開
[佐野正弘ITmedia]
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本質的な問題解決に必要なものとは

 しかしなぜ、そこまでしてショップが契約を増やすことにこだわるのか? といえば、そこには携帯電話ショップのビジネス構造が大きく影響している。携帯4社が運営するショップはその会社のブランドを名乗ってはいるが、実際の運営は販売代理店が担っているものがほとんどで、携帯各社の直営店はごくわずかしか存在しない。

 そして販売代理店の主な収益源は端末などの販売によるものではなく、携帯電話会社が求めるプランの契約獲得などに応じて携帯電話会社から支払われる販売奨励金である。つまり携帯各社が求める契約を多く獲得し、長く契約してもらうほど多くの収入が得られる一方、獲得できなければ奨励金が減り、最悪の場合閉店に追い込まれることもある訳だ。

 だが携帯電話の普及期にあった20年以上前ならともかく、ほぼ1人1台が携帯電話やスマートフォンを持ち、しかも少子高齢化で新規契約者の増加が見込めない現在では、加入者を増やし料金の高いプランを契約してもらうのにも限界がある。それでいて、電気通信事業法改正によってユーザー側の乗り換えのハードルが大きく下がり転出が容易になったのに加え、NTTドコモの「ahamo」などオンライン専用プランの台頭などによってショップ店頭での契約そのものが減少するなど、携帯電話ショップを取り巻く環境は非常に厳しいものとなっている。

 にもかかわらず、携帯電話会社側は契約獲得を重視した指標を変えていないことから、現場には多くのひずみが生じているのが実情だ。総務省が2021年に実施した携帯電話ショップ店員へのアンケートでも、携帯電話会社が設定する営業目標を理由に、顧客のニーズや意向を確認せずに上位の料金プランを勧誘したことがあると回答した人が4割強に上るとされており、携帯電話会社の意向で現場に無理が生じている様子を見て取ることができる。

総務省「競争ルールの検証に関するWG」第17回資料より。携帯電話会社が設定する販売目標がショップ店員への強いプレッシャーとなり、無理な契約などに至るケースが多いという

 そうした構造上の問題を行政側から多く指摘されたことから、携帯電話会社もショップ側に対して独自商材の取り扱いを認めるなど、環境改善に向けた取り組みも進められつつあるようだ。だが少子高齢化やサービスのオンライン化など、店頭での顧客獲得が難しい環境は今後も大きく変わることはない。

 それだけに今回のような詐欺行為を生まないためには、ビジネスに無理が生じている新規顧客の開拓などから、「スマートフォン教室」などシニアを中心にニーズが高まっているサポートを有料化して収益源とし、ビジネスの柱をそちらに移するなど、市場環境に合わせて携帯電話ショップのビジネスを大きく転換し、ひずみをなすことが求められているのではないかと筆者は考える。

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