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電力不足にデータ分析とクラウドで挑む 大阪ガスが取り組む「仮想発電所」の裏側(2/2 ページ)

» 2022年09月15日 10時00分 公開
[酒井真弓ITmedia]
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横展開を意識 大阪ガスが内製した「高負荷データ分析基盤」の全容

 大阪ガスが構築した高負荷データ分析基盤の特徴は、データ活用に必要な作業をできる限り共通化し、社内のさまざまなプロジェクトに展開できるようにしたことだ。

 ポイントは、従来ならプロジェクトごとにどのツールを使うか検討し、一品一品フルカスタマイズで開発するところ、最初から1つのテンプレートのように使えるよう、自分たちの手で統合した点だ。複数のSaaSと内製開発を組み合わせることで、コストを抑えつつ、柔軟性と拡張性も高めた。

photo 大阪ガスが内製した「高負荷データ分析基盤」

 その結果、事業部側で発生する「ビッグデータ処理」「リアルタイム処理」「異常検知や予測分析などの複雑な分析」といったリクエストに対し、必要な機能を選択して対応できるようになった。単一の基盤としてまとめたことで、運用開始後のメンテナンスもしやすくなったという。

「欲しいシステムを導入して終わり」にしない 内製にこだわった理由

 基盤の構築に当たり、SaaSと社内開発を組み合わせる形を選んだ大阪ガス。しかし、実は同社の関連会社にはSIerのオージス総研があり、ここに依頼すればシステム開発に長けたメンバーが“うまいことやってくれた”可能性もある。それでも内製を選んだ背景には、ビジネスアナリシスセンターが目指すビジョンが関わっていた。

 國政さんによれば、ビジネスアナリシスセンターは設立当初から「データ分析のCoE」を目指しているという。CoEとは(Center of Excellence)の略で、目的を達成するための仕組みや体制を整え、広めていく組織横断型の専門チームを指す。つまり「欲しいシステムを導入して終わり」ではなく、データ分析に必要な仕組みや体制の整備まで進めたかったわけだ。

 「われわれはこれまで、事業部とタッグを組み、データ分析の観点から業務コンサルティングの役割を担ってきた。ビジネス要件をシステムやデータ分析に落とし込むだけではなく、いかに付加価値を上げるかに重きを置いてきた。加えて、最近は、ビジネス要件への迅速な対応が求められ、社外に受発注する関係では間に合わないことが課題となっていた。スピーディーにプロジェクトを回すには、内製がベターだった」(國政さん)

photo 大阪ガス DX企画部 ビジネスアナリシスセンター アーキテクト 國政秀太郎さん

 だからといって、クラウドを活用したシステム構築への理解が浅くて良いわけではない。ビジネスアナリシスセンターでは、プロジェクトの早期にGoogle Cloudと連携し、Qwiklabs(Google Cloudを体験学習できる環境)を使った研修などを実施。OJTとの両軸で知見を深めていったという。

「事業部側がノーといえばおしまい」 部署間の信頼性にも工夫

 新しい基盤の実現に当たっては、もう一つ工夫した点があるという。それは実際にエネルギーの供給を担当する事業部との信頼関係だ。いくら新たな基盤を作っても、実際に業務に用いる事業部側が納得できないものでは意味がない。事業の実態に即したシステムを作るには、双方の良好な関係が不可欠だった。

 「僕らがどれだけやりたいといったって、事業部側がノーといえば、それでおしまい。10人が10人最初から新たな取り組みに前向きというわけではない。有効なのは、新しいことに前向きな人を見つけてハートをつかみ、伴走しながらコツコツ成功体験を積むことだった」(岡村さん)

 國政さんによれば、今回のデータ分析基盤を構築するプロジェクトでは、1〜2カ月単位で何らかの成果が出していけるよう、スケジュールや目標を組み立てたという。短いスパンで着実に課題をクリアしていくことで、現場の士気が高まることを見込んだわけだ。こうした取り組みが奏功し、事業部門の理解を得られたとしている。

 「前向きな人の中には、得てして『この人が動くと波及効果がすごい』という人がいるもの。そういう人たちと一緒に悩み、議論を重ねることで『國政、ええ奴やな』『岡村、おもろいやんか』『こいつらとなら何か知らんけどうまくいきそうやな』と思ってもらえると、今度はその人がインフルエンサーとなって私たちの取り組みを宣伝してくれたり、困ったときにまた相談してくれたりする」(岡村さん)

新基盤は他の社内プロジェクトでも活用

 事業部との信頼関係を勝ち取り、クラウド基盤の構築に成功した大阪ガス。ビジネスアナリシスセンターは今後、高負荷データ分析基盤を他の社内プロジェクトに拡大し、迅速かつ柔軟性の高いサービス展開に役立てるという。

 「VPPは、いかに多くのIoT機器を制御できるかでビジネスとしての成否が決まる。このことは、VPP以外のサービスにも共通するテーマでもある。高負荷データ分析基盤を使ってあらゆるサービス展開の要となっていきたい」(岡村さん)

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