このコーナーでは、テクノロジーの最新研究を紹介するWebメディア「Seamless」を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。
明治大学宮下研究室に所属する研究者らが発表した論文「カーソルが進入できないノッチがポインティングの操作時間に与える影響」は、MacBook Pro(2021)のノッチ部分(描画が行われない黒い領域)によってカーソルが隠れ、マウス操作が遅れることで作業効率が低下する問題を改善した研究報告だ。
MacBook Proのディスプレイ上端中央に配置されたノッチは、カーソルが進入できるため、その結果カーソルの一部もしくは全部が隠れて見えなくなる現象が起きる。同研究チームは8月、この課題に対して、ノッチのありなしでマウスの操作時間とエラー率にどのような影響があるのかを調査した。
下図のように、ノッチ(黒い領域)を挟んで開始ターゲット(赤い領域)の中心から終了ターゲット(緑の領域)の中心までをマウス操作でカーソル移動させた際に、ノッチのありなしで操作時間にどのような影響が出るかを実験した。結果、ノッチが配置されるとマウスの操作時間が増加し作業効率が下がることを示唆した。
では、どうすればノッチがある中で作業効率を向上させることができるのか。今回は、その回答を導いた研究報告となる。
上記の先行研究において、マウス操作でノッチを通過する際、2つの戦略をとることが分かった。「ノッチに進入する戦略」と「ノッチを回避する戦略」である。前者はカーソルが隠れてもいいのでノッチの上端に沿わせてスライドさせる戦略で、後者はカーソルが隠れたくないためノッチの下を迂回して通過する戦略だ。
操作時間とエラー率に与える影響を調査した結果、前者よりも後者の方が操作時間が短いと分かった。この結果から、迂回する方が良いと分かったため、はじめからノッチをカーソルが進入できない領域にしておけば良いのではと考えた。
次の実験では、「ノッチにカーソルが進入できない条件」と「カーソルが進入できる条件」を実施した。その結果、前者が後者より有意に操作時間が短いと分かった。また参加者アンケートでは、参加者全員がノッチにカーソルが進入できないことに対して好印象であった。特にノッチと終了ターゲットが隣接している条件で好まれ、ノッチにカーソルがとどまるため操作が容易であったと回答した。
よって、ノッチをディスプレイに配置する場合、ノッチを「カーソルが進入できない領域」に設計することが望ましいと考えられる。
出典および画像クレジット: 大塲 洋介, 宮下 芳明. カーソルが進入できないノッチがポインティングの操作時間に与える影響. 情報処理学会, 研究報告ヒューマンコンピュータインタラクション(HCI), 2022-HCI-200, 37, 1-8
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