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権利者不明「孤児作品」問題の解決に一歩 文化庁が提案する新制度をひもとく小寺信良のIT大作戦(2/2 ページ)

» 2023年01月19日 16時30分 公開
[小寺信良ITmedia]
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より早く、より簡易に

 これまでこのような孤児作品を手当てする方法として、裁定制度があった。これは権利者の許諾を得る代わりに、文化庁長官の裁定を受け、通常の使用料額に相当する補償金を供託することで利用する事ができるという制度である。裁定制度もより活用しやすくするため、過去何度か条件の緩和が行なわれてきたが、申請から利用開始できるまで1〜2カ月程度かかることから、素早いビジネス展開には不向きとされているところだ。

 新制度は、裁定制度に似てはいるが、文化庁長官の「裁定」ではなく、「行政処分」でやることになる。行政処分と聞くと、イメージとしては免許の取り消しや課税といった行政罰のイメージがあるが、実際には許可や認可、免許といったことも行政法上は行政処分というくくりになる。

 行政処分は条件がそろえば比較的早く決定することができ、また一般論として、権利がある人が処分に不服がある場合は、行政訴訟として取消訴訟ができる。

 新制度では、利用者の支払いが完了すればすぐに利用開始できる。ただ、権利者等の申し出があるまで、という時限的な利用となっている。利用開始後に権利者が現われた場合は、そこから通常のライセンス交渉に移り継続的に利用するか、あるいは交渉が決裂すれば行政処分が撤回され、使用が中止されるという流れだ。

新制度のイメージ

 またいったん新制度で利用を開始しておき、平行して裁定も申請することも想定されている。裁定制度には時限的利用といった性格はないので、長期にわたり利用したい場合は、途中から裁定制度へスイッチするわけだ。

 権利者が見つからないのに、その使用料を誰に払うのか、また払った使用料のゆくえはどうなっているのかは気になるところだろう。報告書案では、新制度に対するなんらかの窓口組織(民間)を認め、そこが申請の相談や受付業務、使用料算出、使用料の徴収や管理を行なうこととなっている。

 またそれら窓口機関運用のために、別途手数料を徴収することも認めているが、結局権利者が見つからないままで行くということも考えられる。その場合払った使用料をずーっとプールしておくだけというのももったいないので、それを組織運営費などに当てていけば、手数料も下げられるのではないかといった案が盛り込まれている。

 これまで孤児作品の利用では、「裁定制度があるじゃないか。以上」みたいな感じだったが、文化庁と直接やりとりしながら1〜2カ月という時間と手間がかかることから、あまり利用されてこなかった。一方で新制度および民間の窓口が開けば、もっとスピーディーに、簡易な手続きで利用が開始できるだろうと期待できる。

 また裁定制度もこうした窓口機関が手続き代行することで、いわゆるワンストップで新制度から裁定制度まで行けるようになるかもしれない。これから作る制度なだけに、当然紙の書類のやりとりではなく、DX化された手続きになるだろうから、オンラインでフォームを埋めれば申請終わりになることを期待したい。

 まだあくまでも「案」であり、これがそのまま法改正まで行くとは限らないが、少なくとも10数年前から燻ってきた著作権保護期間延長のデメリットが、ようやくカバーされることになるのかなという気はしている。江戸の敵を長崎で、という表現でいいのか分からないが、積年の課題解決に尽力された福井先生には、ひとまずお疲れさまでしたと申し上げたい。

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