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権利者不明「孤児作品」問題の解決に一歩 文化庁が提案する新制度をひもとく小寺信良のIT大作戦(1/2 ページ)

» 2023年01月19日 16時30分 公開
[小寺信良ITmedia]

 著作権保護期間延長の是非に関する本格的な議論は、2006年ごろから始まった。著作権保護団体が文化庁に延長の要望書を提出したことがきっかけとなり、著作権保護期間は延ばした方がメリットがあるのか、逆に短い方がメリットがあるのか、さまざまな調査研究が行なわれた。

 国内議論においては延長反対派が優勢となり、延長論は沈静化したに見えたが、2018年に発行された国際条約「TPP11」によってあっさりひっくり返った。日本の著作権保護期間は、50年から70年に延長された。

 延長することでどのようなデメリットがあるのか。1つは、著作権が切れた作品を無償公開する「青空文庫」のようなアーカイブに、20年間著作権切れ作品が入ってこなくなることだ。二次創作には別枠で手当がされたところだが、作品そのものの利用や翻案などは20年滞る事になる。

 もう1つは、「孤児作品」が増えるという事である。孤児作品とは、著作権の継承者(多くの場合は子や孫)が誰でどこにいるのか分からないため、許諾を得る事ができない作品を指す。作者の死後50年でも、多くは孫の代になっているだろう。それが70年ともなれば、ひ孫以上に拡がる可能性がある。

 子孫も著名人ならある程度連絡の付けようもあるかもしれないが、一般人の場合は自分で名乗り出てもらわない限り無理である。場合によっては、祖先に著作者がいたことを知らないままの人もいるかもしれない。また権利は生存している子孫全員に拡散してしまうため、子孫の人数が増えれば増えるほど、全員に許諾を取るのが困難になる。こうした理由から、作品を利用したくても利用できないといったことが起こる。

 こうした孤児作品問題に警鐘を鳴らし続けたのが、骨董通り法律事務所の福井健策弁護士である。先の記事リンクにある写真の中央、山吹色のジャケットを来ているのが、16年前の福井先生である。同じ写真の左端には、青空文庫の発起人である富田倫生氏(故人)も写っている。

新制度の中身

 そんな福井先生が委員として参加している第22期 文化審議会 著作権分科会 法制度小委員会が、2年間に渡る審議を経て報告書案をまとめている。パブリックコメントを募集しているが、公示日が2022年12月28日で、受付締切日時が1月18日までとなっており、30日を切っている。行政手続法では、「意見提出期間は、命令等の案の公示の日から起算して30日以上でなければならない」と定めてある。

 それを下回る場合は理由の公示が必要なはずだが、パブコメ募集サイトには理由が記されていない。最近は理由なしで30日を切るパブコメ募集が増えており、提出する側にとっては負担が大きくなっている。

 報告書案は大きく4つの検討結果が示されているが、孤児作品の取り扱いにフォーカスを当てた施策が、「II.簡素で一元的な権利処理方策と対価還元について」という項目である。

 基本方針としては、分野を横断する一元的な窓口を作ること、同じく分野を横断する権利情報データベースを作ること、既存データベースと連携できることが示されている。一方でそうしたデータベースに引っ掛からないものも当然でてくるわけで、その取り扱いについての方策についても手当てされる事となった。

 現時点で権利者の所在が不明なケースとして、3パターンが想定されている。まず作品自体が集中管理されている場合は、集中管理団体を通じて許諾が出される。音楽などは比較的このパターンがあり得るだろう。

 2つ目のパターンは、集中管理されていないもので、作品に個別許諾の意志表示があるケースだ。書籍などは奥付に「複製禁止・転載禁止」などと書かれているものがある。こうしたケースでは、権利者から直接許諾をもらうしかない。

 3つ目のパターンは、著作権者等の情報がなく、連絡不能のケースである。また著作権者と連絡が付けられても、返答がないケースもある。こうした場合には、著作権使用料相当額を収めることにより、一定期間利用できるように、新制度を設立する。

新制度に該当するパターンの分類

 また2つ目のパターンでも、過去に公表された時点で示されている「複製禁止・転載禁止」の記載は、今でも有効なのかという疑問も呈されている。出版された当時、あるいは長年版を重ねて今もなお増刷している作品については、ある意味その都度「複製禁止・転載禁止」の意思は確認されることになる。

 一方で絶版となり流通されなくなった作品においては、今も「複製禁止・転載禁止」なのかは確認できない。いつかの時点で、もう利用してもよいと著作者が考えていたとしても、出版されるチャンスがなければ、その意志を確認・明示するタイミングが発生しなかったからである。こうしたものは、新制度の対象になり得るのではないかとされている。

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