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AIでイラストを“トレパク”? 既存画像から再生成する「i2i」機能を巡る法解釈(2/2 ページ)

» 2023年01月25日 18時30分 公開
[谷井将人ITmedia]
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元作品を知っているか、依拠しているかがカギ

 福井弁護士によると、他人が制作したイラストを画像生成AIに入力し、i2i機能を使って再合成して作品を公表した場合、著作権侵害が成立する可能性が高いという。

 著作権侵害と判断するには、元の作品への「依拠」が必要という。元作品を知った上で、その作品を利用または参考にして創作した場合は依拠性が認められる。元画像を使って再合成したなら、依拠していないという主張は厳しい。

 逆に、元作品とされるイラストと対象のイラストが似ていたとしても、作者が元作品を知らず、偶然一致していただけであれば、依拠性がないとして著作権侵害が認められない。裁判では依拠性の有無を含む著作権侵害の要件を確認する。

photo 文化庁「令和3年度著作権セミナー(岐阜県)著作権法概論」より

 イラスト生成AIで考えると、例えば指示文(いわゆる呪文)を入力してイラストを生成する「t2i」(text to image)生成で作った画像が偶然既存の作品と似ていたとしても、元作品を知らなければ依拠性が認められない可能性が高い。

 しかし、t2iで生成すれば全て著作権侵害ではないとは言いきれない。例えば「○○さん風の○○の絵」のように指示することで、参考にしたイラストレーターの特定の作品に似た絵が生成されれば、依拠性があると判断される可能性もあるという。特定の既存作品にそっくりなイラストを狙って合成しようとした場合も依拠性が認められる可能性は十分ある。

AI開発にブレーキはかかるのか

 イラスト生成AIを巡っては米国で訴訟が複数起きている。ストックフォトサービスを提供する米Getty Imagesは1月17日(現地時間)、画像生成AIの開発を手掛ける英Stability AIに対する法的措置を始めたと発表した。

 これは生成した画像ではなく、学習させた画像の知的財産権を巡る裁判。Stability AIがGetty ImagesのAI開発用ライセンスを取得せずに著作物を利用したとしている。

 福井弁護士は米国の裁判について「仮に生成系AI側が敗訴すれば、世界の先頭を走る米国のAI開発は大ブレーキを受ける」と予想。

 日本においては、AIやIoT、ビッグデータといったテクノロジーの発展を背景に、著作物利用の円滑化を図るため、2018年の著作権法改正で著作物の利用条件が緩和された。条件はあるものの、公開されている画像をAIに学習させる行為はほぼ問題ない。

photo 文化庁「著作権法の一部を改正する法律 概要」より

 一方、イラストレーターの心理も考慮し、学習させた画像が権利的にクリーンであることをコンセプトとするイラスト生成AIプロジェクトも進行している。

 例えばデザイン・都市開発などを手掛けるアブストラクトエンジン(東京都渋谷区)は、パブリックドメインの画像やイラストレーター本人から許可を得たイラストのみを学習させてAIを作る「絵藍ミツアプロジェクト」を実施している。

 著作物を学習することも多いAI開発は、法律の変化による影響も大きい。日本では著作権法改正で音声合成業界の研究が進んだ事例もある。今後は学習にかかる権利、生成物にかかる権利の両面で裁判事例の動向などを注視する必要もあるだろう。

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