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米国財務省、金融機関のクラウド採用に関するレポートを初公開 透明性の欠如、少数の事業者への集中など課題を指摘

» 2023年02月14日 10時16分 公開
[新野淳一ITmedia]

この記事は新野淳一氏のブログ「Publickey」に掲載された「米国財務省、金融機関のクラウド採用において課題を指摘する、初のレポートを公開。透明性に欠け、少数の事業者への集中などの指摘」(2023年2月14日掲載)を、ITmedia NEWS編集部で一部編集し、転載したものです。

 米国財務省は、クラウドを採用する金融機関が増加していることについて、特に地方銀行や信用金庫のような中小規模の金融機関(原文ではCommunity Bank。以下「地方銀行」と表記)がクラウドを採用するに当たって直面する利点や課題についてまとめたレポートを公開しました。

 米国財務省としてこの種のレポートを公開するのは初めてとされており、規制当局、民間セクターの利害関係者、業界団体および関係者などからの広範な意見を基に作成されたと説明されています。

 その内容は、地方銀行にとってクラウドの採用は信頼性を高めフィンテック企業などとも競争できるようになる利点がある一方で、クラウド障害時などにおけるさらなる情報の透明性の確保、専門家によるサポート、サイバーセキュリティ対策などが課題であると指摘しています。

 このレポートを受けて米国財務省ウォーリー・アデエモ財務副長官は「財務省は金融規制当局、業界パートナー、およびクラウド事業者らと協力し、より広範なコラボレーションと透明性を推進することを約束します」とコメントしています。

クラウドを採用する上での課題。透明性に欠け、少数の事業者に集中

 レポートで指摘された課題について詳細は原文をご覧いただくとして、ここでは各課題について要約したものを紹介しましょう。

金融機関によるデューデリジェンスとモニタリングのための透明性に欠けている

 地方銀行は、彼らのシステムに影響する障害やインシデントに対する情報の詳細がしばしば得られないことに懸念を表明した。クラウド事業者と金融機関の間で情報共有の適切なバランスを実現するには、さらなる努力が必要だと財務省は考えている。

クラウドサービスを安全に展開するのに必要な人材やツールの需要と供給にギャップが生じている

 クラウド事業者は、金融機関が顧客のために回復力のある安全なプラットフォームを設計し維持するのに役立つ支援ツールや人材採用を改善する必要がある。

クラウド事業者に内在するものを含む、潜在的な運用上のインシデントの発生に関するリスク

 金融機関は依然としてクラウド事業者の技術上の脆弱性に関するリスクにさらされており、それを軽減するために別のクラウド事業者への移行できるようにするための技術的な課題に直面している。

少数のクラウド事業者に市場が集約されることが金融セクターの回復力に及ぼす潜在的な影響

 少数のクラウド事業者に市場が集約されることで、あるクラウド事業者で発生したインシデントが多くの金融事業者に影響する。これは銀行、証券、保険市場全体に影響する可能性があり、財務省と金融規制当局はこの影響を評価する必要がある。

少数のクラウド事業者に市場が集約されることによる契約時の力関係の変化

 少数のクラウド事業者に市場が集約されることで、クラウド事業者は契約に際して大きな交渉力を持ち得る。これが特に小規模な金融機関の交渉能力を制限する可能性がある。

国際情勢と規制の細分化

 国ごとに細分化されたクラウドへの規制などにより、米国の金融機関が世界規模で一貫したクラウドの採用はほぼ不可能である。クラウド事業者は海外の金融規制当局による監督を受ける可能性もあり、その場合、国際的な規制の競合などによりクラウド事業者のサービス品質やセキュリティに悪影響を及ぼす可能性がある。

 米国財務省はこれらの課題に取り組むため、金融規制当局や関係機関、金融期間やクラウド事業者らと引き続き協力するとともに、来年中には省庁間のクラウドサービスステアリンググループを立ち上げ、ここで挙げられた課題の多くに対処するとしています。

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