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“船乗り向け電子決済アプリ”がAWSで動くワケ 船ならではの「なるほど」な理由クラウド事例ウォッチ

» 2022年02月01日 10時58分 公開
[ITmedia]

連載:クラウド事例ウォッチ

クラウド事業者が公開しているクラウドインフラの活用事例から、事業や業務効率化の参考になるものをピックアップ。IaaS・PaaSが実現するビジネスの可能性をコンパクトにお届けする。

 輸送船の船員向け電子決済サービス「MarCoPay」。日本郵船などが立ち上げたフィリピンMarCoPay社が提供するこのスマートフォンアプリは、船上からでも残高を母国に送金できる機能や、QRコードを使った給与の支払い機能などを備える。システム基盤にはAWSを採用。日本郵船ではこれまで、サービスの運用基盤としてオンプレミスを使うことが主流だったが、MarCoPayでは船上ならではのある理由からAWSを選んだという。

MarCoPayってどんなサービス?

 MarCoPayは2020年、外国人船員向けのアプリとしてサービスを開始した。給与の支払いや国際送金に加え、生活用品の購入にも利用可能。寄港先のATMで残高を現金として引き出せる機能も備える。

photo MarCoPayのイメージ

 日本郵船がMarCoPayを提供する背景には、大きく分けて2つの理由がある。一つは船上での業務削減だ。日本人船員の給与は銀行振り込みが一般的な一方、外国人船員に対しては現金で支払うケースがあり、通貨の安全な保管や出納管理が負担だったという。

 もう一つは外国人船員の経済的地位の向上だ。外国人船員の中には、自国の平均水準を上回る給与を得ながらも、金融インフラが未発達だったり、雇用が乗船ごとの期間契約だったりすることを理由に、経済価値が正当に評価されない人もいるという。日本郵船はMarCoPayを通じて、船員が融資を受けるときなどに、正当な評価を受けられる環境作りを目指すとしている。

選定基準はリージョン数や海外事例

 そんなMarCoPayがシステムの運用基盤にAWSを採用したのは、船員向けサービスという都合上、ユーザーが世界中の洋上で利用することを想定していたからだ。この条件を満たすには、サーバが世界各地に存在するクラウド基盤が必要だった。将来は自社以外の船主や管理会社への展開も見込んでいたこともあり、海外での利用実績の多さも求めていたという。

photo システム構成のイメージ

 実際の基盤構築に当たってはアクセンチュアに協力を依頼。19年4月に着手し、20年2月に予定していた試験運用の開始までに完成させた。

 ただ、試験運用の開始後にはトラブルもあった。新型コロナウイルスが流行したことで、一時的に取り組みをストップしなければいけない事態が起きたという。とはいえAWSの場合、その間だけ利用を停止できたことから、サーバの管理コストを抑えつつ対応できたという。

 日本郵船は今後、MarCoPayが使える小売店やサービスを増やせるよう、他社への展開を進めていく方針だ。

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