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「ペイ疲れ」って本当にあるの?(1/2 ページ)

» 2023年03月16日 15時30分 公開

 日本経済新聞のデジタル版に3月15日に掲載された記事で気になるキーワードが使われていた。

 「Z世代、次は指輪型の1秒決済や顔認証 乱立のペイは敬遠」という記事の中で登場した「ペイ疲れ」 というキーワードがそれだが、記事によれば電子マネーやコード決済などさまざまな決済系サービスが乱立し、記事中でZ世代とされる主に25歳以下を指す世代の間で「ペイ疲れ」の声が聞こえるなか、「1秒決済」が可能な指輪型の決済デバイスや生体認証の活用が進んでいるというもの。

電子マネーやクレカのタッチ決済と比べて手間なのは確かだが、普及が進むコード決済

 要は決済の場面でいちいちスマートフォンを操作せずとも支払える手段があり、それが若者世代で人気を博しているということらしい。ところでこの「ペイ疲れ」という話、本当に存在するのだろうか?

「ペイ疲れ」ってどういうこと?

 記事では「ペイ疲れ」と一くくりに書かれているが、スマートフォンを使う決済手段は複数存在する。代表的なものにはApple PayやGoogle Payがあり、クレジットカードなどを登録して非接触の“タッチ決済”で支払いを行う。この他、いわゆるガラケー時代から使われてきた「おサイフケータイ」が存在し、これらは「電子マネー」で支払う手段を提供する。ただ、最近ではApple PayやGoogle Payがおサイフケータイの機能を包含するようになっており、見た目のユーザーインタフェースでは両者の境は曖昧となりつつある。

 もう1つ、スマートフォンの発展とともに利用が進んだのがQRコードやバーコードを使う「コード決済」と呼ばれるもの。スマートフォンを読み取り機に“タッチ”するだけで支払える前述のApple Payやおサイフケータイなどとは異なり、こちらは支払いのためのアプリを起動し、バーコードを表示したり、お店の出すQRコードをカメラで読み込んで金額を入力する必要があるなど、少し操作の手間がある点に特徴がある。

 PayPayをはじめ、コード決済サービスのほとんどが何かしらの「ペイ」の名称を冠しているため、「ペイ」という名称で決済に触れたときは、おそらく意図するのはこちらの決済手段のことを指すのがほとんどだと考えられる。

 このコード決済の最近の事情はどうなっているのか。2023年3月3日にキャッシュレス推進協議会が、直近3カ月間(2022年10〜12月)の利用状況を加えたコード決済の利用動向をまとめているが、過去1年間で決済金額は約2倍、決済件数は約1.6倍となっている。サービスごとにキャンペーンの有無による多少の時期的な変動があるため、月ごとの伸びは必ずしも一定ではないが、全体でいえばそれくらいのボリュームになっているということだ。

 これでもクレジットカードや電子マネーを含む(日本国内の基準でいう)キャッシュレス決済比率のうち、コード決済の占める割合は1割前後だが、2021年時点のキャッシュレス決済比率がすでに決済全体の32.5%に達しており、年間300兆円といわれる日本の最終消費支出に占める割合からみて、年間で決済額が6〜10兆円規模の市場に成長している状況だ。

2022年のコード決済の利用状況(出典:キャッシュレス推進協議会)

 さて、「ペイ疲れ」と言うが、これは何を指している言葉なのだろうか。個々人で「もう面倒だから使いたくない」という人は当然いるだろうが、別にそれは個人の意見であって、トレンド全体を語る言葉ではない。この話題をもって「実は○○ペイ以外の決済手段がブームになっている」というなら、きちんと数字などの形で示すべきだ。少なくともコード決済の市場は現在も伸び続けており、それはそれだけ利用者がいるということ。

 「コード決済なんてキャンペーンがなければ使わない」という声も聞くが、現在の還元キャンペーンは主にメーカーの販促や各自治体が街おこしのために自主的に資金を拠出しているもので、例えばPayPayなどはすでにキャンペーンに過度な資金を投入していない。むしろ、周囲が積極的にキャンペーンを興してPayPayのプラットフォームを利用しているという流れにすぎない。因果関係が逆なのだ。

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