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「ペイ疲れ」って本当にあるの?(2/2 ページ)

» 2023年03月16日 15時30分 公開
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世界的電子マネーの成功例は意外な企業

 実際のところ、多くの小売店では複数の支払い手段に対応しており、利用者自身が好きな決済手段を選んで支払うことができる。クレジットカードで払いたければそれでいいし、コード決済を使いたくて対応しているならば、それで支払えばいい。

 筆者の場合は割と明確で、支払いはほぼ非接触対応のクレジットカードで行っており、自販機での飲料購入や金額が少なくて素早く店を出たいときには電子マネー、支払い手段がコード決済しかない、あるいはモバイルアプリ上のオンラインオーダーでコード決済が選択できる場合(コード決済であればクレジットカードをアプリに登録する必要がないため)はそれを使うという区分けをしている。クレジットカードで支払いをまとめた方があとで出入金の明細を作るのに便利なため、このような流れを選んでからだ。筆者の場合はポイ活にほぼ興味がないため、還元額に応じて決済手段を変更するようなことはしていない。

 このように、人それぞれに使い分けがあり、それを可能するだけの選択肢が存在するのが日本の決済シーンだ。「複雑だからもっとシンプルにしろ」という意見もあるが、「選択肢がある」というのは競争の産物であり、魅力の1つだと筆者は考えている。ただ、これに追随する必要のある加盟店の負担が大きいことは確かで、その対応の有無を巡ってわれわれ利用者は右往左往する面はあり、この点はデメリットとなる。「こんなに複雑なのは日本だけ」という意見も聞くが、実際には世界各国に多かれ少なかれ似たような事情を抱えており、例えばAlipayとWeChat Payが市場を席巻した中国においても、2桁に上るサービスが乱立して競い合った結果にすぎない。

 それに、MastercardやVisaといった国際ブランドのカードと異なる「電子マネー」において、世界で最も利用されて成功したといわれているのは、スターバックスのロイヤルティープログラムである「Starbucks Rewards」であることを覚えておいていいと思う。

Z世代のキャッシュレス事情

 そして日経新聞の記事における疑問点を少し加えておくと、Z世代と呼ばれる若年層はキャッシュレスにおいて他の年齢層と区別しないといけない事情がある。1つはクレジットカードの所持率で、クレジットヒストリーがある程度たまって利用頻度が上がってくるのが25歳を過ぎたあたりくらいとなる。Apple PayやGoogle Payはデビットカードの登録制限が少し存在するため、どうしても日本におけるキャッシュレス決済の最大のマジョリティーである「クレジットカード」の枠から外れてしまう。

 そのため、もともと現金比率が高い層として知られていたのだが、これにスマートフォン決済と結びついたプリペイド型カード(LINE Payなどが有名)や「BNPL」などの名称で最近呼ばれている「後払い」の決済手段が登場したことで、この若年層における現金利用者を吸収しつつあるのが現状だ。

 なお、日経新聞の記事中では「指輪型の決済端末」として「EVERING」が紹介されているが、これは「Visa決済ができるプリペイドカード」の一種だ。チャージはスマートフォンアプリ上で行い、中身はVisaのタッチ決済そのものだ。さらにいうと指輪の形状こそ比較的新しいが、もともとQUICPayはキーホルダー型の決済端末を出していたし、台湾のEasyCardに至ってはもっと奇抜な異形態のデバイスが存在している。その意味では別に特別新しいものでもない。

 また生体認証として海陽学園海陽中等教育学校で顔認証決済が導入された話が紹介されているが、これは生徒用のIDカードを顔認識に置き換えたもので、「閉じた世界」での決済を代用しているにすぎない。これは追加取材が必要になるが、IDカードでは「家に忘れた」といったトラブルが頻発しており、例外対応をするよりは確実な顔認証で置き換えてしまった方が、利便性が高いとの判断なのだと予想する。

 顔認証決済は“閉じた世界”では実は利用が進みつつあり、例えばNECが社内のIDカードを顔認証に置き換えて、セキュリティゲートや社内での買い物をIDに代わって顔認証で行えるようにしたことが知られている。ただし、顔情報は登録の手間に加え、対象となる人物が増えるとデータベースのマッチング時間が延び、認識エラーが発生する確率が上がりやすいという問題がある。いまだ汎用な決済手段として一般向けに開放されない理由がこの部分にある。

 最後に重要な話として、「そもそも若年層は非キャッシュレス層の比率が高い」という点にも触れておく。現在キャッシュレスを積極的に活用しているのは30〜50代あたりの社会人層が中心で、仮に主婦などであったとしても日々の生活のなかでキャッシュレスをうまく活用しているのが実態だ。

 つまり、このボリュームゾーンから外れた高齢者や若年層は比較的現金などの決済手段を用いることが多いというわけで、そもそも「ペイ疲れ」という表現自体がおかしい。生活習慣がすでに根付いた高齢者はともかく、こうしたサービスに触れる機会の少なかった若年層をいかに金融の世界に取り込んでいくかが業界の大きな課題であり、やはりキャッシュレス決済最大の敵は現金ということになる。こうした背景を鑑みつつ、記事を読んでいくといいだろう。

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