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数学の未解決問題「アインシュタイン問題」を“完全解決”する新図形発見 「The hat」を改良Innovative Tech

» 2023年06月07日 08時00分 公開
[山下裕毅ITmedia]

Innovative Tech:

このコーナーでは、テクノロジーの最新研究を紹介するWebメディア「Seamless」を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。Twitter: @shiropen2

 英国の数学者ら、カナダのウォータールー大学と米National Museum of Mathematicsに所属する研究者らが発表した論文「A chiral aperiodic monotile」は、繰り返しパターンを作らず、鏡像なしで、2次元の表面を無限に敷き詰めることができる単一の非周期タイルを発見した研究報告である。

単一のタイル形状だけを使って、繰り返しパターンなし、鏡像なしで平面を埋め尽くせる
今回発見した十四角形の新図形

 正方形や正三角形などの単純な図形は、表面を隙間なく繰り返しタイル状にすることができる。しかし、数学者は、このような繰り返しパターンを形成することのない、より複雑な図形を使用する「非周期的タイリング」と呼ばれる問題を長い間探究してきた。数学の未解決問題「アインシュタイン問題」(「Einstein」と書き、「アインシュタイン」と読む。ドイツ語のタイル1枚を意味するein steinをもじった名前)である。

 最も有名な非周期タイルは、数学者のロジャー・ペンローズさんが1970年代に、2つの異なる形状を組み合わせることで、無限で繰り返しのないタイル「ペンローズ・タイル」を作ったことである。

「ペンローズ・タイル」(Wikipediaから引用

 そして、今回の研究チームと同チームが2023年3月、繰り返しパターンを作らず、表面を無限に敷き詰めることができる単一のタイル形状(“The hat”と呼んでいる)を発見していた。

The hat

 しかし、この画期的な発見には、その図形と鏡像(裏返した面)の両方が必要であるという制限があり、完全ではなかった。つまり、図形の表面と裏面の両方を使う必要があった。これは不満の残る解決策であり、研究チームは表面だけを使って埋め尽くす単一タイル形状を探究していた。

 今回の研究で発表された図形は、3月に発見された図形を基に改良したもので、繰り返しや鏡像を使用せずに1面のみで表面を無限に敷き詰められる、完全な単一タイル形状を示す。

 十四角形のこの図形を、研究者たちは「Spectre」と名付けた。裏返す必要もなく、同一面のみを使用して無限に平面を埋め尽くす、世界で初めての非周期タイルとなる。

1枚のタイルから平面をどんどん埋め尽くしている様子
曲面エッジを持つSpectres

Source and Image Credits: Smith, David, Joseph Samuel Myers, Craig S. Kaplan and Chaim Goodman-Strauss. “A chiral aperiodic monotile.”(2023).



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