このコーナーでは、テクノロジーの最新研究を紹介するWebメディア「Seamless」を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。Twitter: @shiropen2
米UC DavisとドイツのMPI for Informaticsに所属する研究者らが発表した論文「Shape from Release: Inverse Design and Fabrication of Controlled Release Structures」は、薬物を時間差で放出する錠剤の作り方を提案した研究報告である。放出具合から逆算した形状を3Dプリンタで造形することで作り出す。
点滴の場合は少量ずつ投与することで薬物濃度を制御できるが、経口投与の場合は制御が困難である。そこでこの研究では、時間差で溶ける形状の錠剤を3Dプリンタで造形するアプローチを提案する。
このアプローチは、異なる場所に異なる薬物濃度を持つ多成分・多材料の構造体を造形することで、特定の時間に溶け出し、内容物を制御しながら放出することができる。
経口投与は、錠剤が消化管に摂取された後は外部からの影響を受けることができないため、溶解する活性面によって目的の時間に薬物放出を発生させる必要がある。そのため錠剤の形状が重要になる。
今回のアプローチでは、目的の放出を定義し、その放出プロファイルに従って溶解する錠剤の形状を見つける方法を採用する。具体的には、トポロジー最適化(条件に基づいて最適な構造を計算する手法)に基づき、放出挙動から形状を求める逆設計戦略を取り入れている。
どれくらいの時間をかけて溶解していくかの特性は数学的モデルで計算するだけでなく、実験によって実際に検証し値を計算している。これにより、ロバストで効率的なシミュレーションモデルが得られ、新しい放出挙動を達成する形状を発見し、放出具合と製造性の間のトレードオフを探索するための最適化が可能となる。
Source and Image Credits: Julian Panetta, Haleh Mohammadian, Emiliano Luci, and Vahid Babaei. 2022. Shape from Release: Inverse Design and Fabrication of Controlled Release Structures. ACM Trans. Graph. 41, 6, Article 274(December 2022),14pages. https://doi.org/10.1145/3550454.3555518
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