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目薬を自動で差すコンタクトレンズ ナノニードルが1カ月以上かけてジワジワ注入Innovative Tech

» 2022年07月22日 07時00分 公開
[山下裕毅ITmedia]

Innovative Tech:

このコーナーでは、テクノロジーの最新研究を紹介するWebメディア「Seamless」を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。

 米国のパデュー大学とミシガン大学、韓国の漢陽大学校と弘益大学校、金烏工科大学校の研究チームが開発した「Biodegradable silicon nanoneedles for ocular drug delivery」は、ナノニードルが埋め込まれた溶けるコンタクトレンズで長期間にわたって薬を目に自動投与する眼球ドラッグデリバリーシステムだ。

 角膜上に浸透させたナノニードルが1カ月以上かけて薬を投与することでユーザーの手を煩わさずに、副作用を抑えつつ目を治療する。

(上段)眼内薬物送達におけるナノニードルの動作原理、(下段)涙にすぐ溶けるコンタクトレンズの動作原理

 現在、眼に薬を投与する方法として、外眼部に直接塗布する方法と注射する方法がある。だが、塗る薬は目の奥まで十分に浸透せず、注射は痛みを伴い、炎症を引き起こすことが多いため、どちらの方法も最適とはいえない。患者の負担になるばかりでなく、角膜炎、目のかすみ、目の不快感などの副作用のリスクもある。

 そこで研究チームは、ナノニードルを搭載したコンタクトレンズを目に付けて投与する方法を提案する。このコンタクトレンズは、長期間角膜に浸透させるためにシリコンを用いたナノニードルと、涙にすぐ溶けるコンタクトレンズを統合して構築する。

 シリコンナノニードル(Si NN)は、低侵襲で角膜に浸透し、数カ月かけて徐々に分解されるため、痛みを伴わず長期間の持続的な眼科薬剤の送達が可能である。涙に溶けるコンタクトレンズは、さまざまな角膜サイズに対応し、1分以内に涙液に溶けるため、抗炎症剤の初期放出が可能である。

 具体的には、Si NNは、涙に溶けるコンタクトレンズを眼球に軽く押し付けることで角膜上皮層に導入される。涙に溶けるコンタクトレンズは、付けて1分以内に涙液により完全に溶け、抗炎症剤などの点眼薬が最初に放出される。

 並行して、埋め込まれたSi NNは、涙液中のケイ酸と水素への加水分解反応によって、長期間(1カ月以上)角膜中で徐々に溶解し、これを通して治療薬の長期持続放出が行われる。

 実験ではコンタクトレンズをウサギの角膜に挿入し、角膜の新生血管がどうなるかを検証した。その結果、28日後に角膜の新生血管がほぼ完全に減少することが確認された。現在の標準的な治療法に比べて顕著な副作用を示すことなく、効果的に治療できる可能性を示唆した。

 このコンタクトレンズを使った治療法を人間の患者の治療に使うには、さらに多くの研究が必要であると研究者らは述べている。まず有効性と安全性の両方を試験する必要があり、また一度作成したレンズを保存する手段も開発する必要があると考えている。

Source and Image Credits: Woohyun Park, Van Phuc Nguyen, Yale Jeon, Bongjoong Kim, Yanxiu Li, Jonghun Yi, Hyungjun Kim, Jung Woo Leem, Young L. Kim, Dong Rip Kim, Yannis M. Paulus, and Chi Hwan Lee.“Biodegradable silicon nanoneedles for ocular drug delivery” SCIENCE ADVANCES, 30 Mar 2022, Vol 8, Issue 13, DOI: 10.1126/sciadv.abn1772



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