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神を信じるなら、老化防止薬を飲むべきか? ChatGPTと議論、論文を共同執筆Innovative Tech

» 2023年01月12日 08時00分 公開
[山下裕毅ITmedia]

Innovative Tech:

このコーナーでは、テクノロジーの最新研究を紹介するWebメディア「Seamless」を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。

 香港のバイオテクノロジー企業Insilico Medicine社のAlex Zhavoronkov氏とOpanAIのChatGPTGenerative Pre-trained Transformerが共同執筆した論文「Rapamycin in the context of Pascal’s Wager: generative pre-trained transformer perspective」は、OpenAIが開発した対話できるAI「ChatGPT」と協力し、共同執筆した研究報告である。

 神を信じることを正当化するためによく利用される「パスカルの賭け」の哲学的議論の文脈で、老化防止薬「ラパマイシン」を飲んだ方がいいかをChatGPTと議論した。

 パスカルの賭けとは、フランスの哲学者であり数学者のブレーズ・パスカルが著書「パンセ」で提案した考えである。理性では神の実在を証明できないから、神が存在するかのように生きることが人生において賢明であると説いたものだ。

 例えば、神を信じた場合、もし神が実在したらさまざまな報酬が得られ、神が実在しなくても何も失うものはない。反対に、神を信じない場合、もし神が実在したら得られるさまざまな報酬が得られない。であれば、神が存在することに賭ける方が賢明である、と言う論理である。

 パスカルの賭けの哲学的枠組みを通じて、アンチエイジングのための「ラパマイシン」の使用についてChatGPTと議論したのがこの研究になる。

 ラパマイシンとは、人の老化を防ぐ薬として有望視されている医薬品の1つである。もともと移植した臓器の拒絶反応を防ぐための免疫抑制剤として認可された薬だが、のちに老化を遅らせ寿命が伸びる効果があるとマウスなどの動物実験で明らかになった。人への適応が期待されている。

 研究者は、ChatGPTに次の文章を投げかけた。「パスカルの賭けの観点から、なぜラパマイシンを服用することが、ラパマイシンを服用しないことよりも有益でありうるかについて、徹底的な研究的視点を書きなさい」

ChatGPTとの実際のやりとり

 結果、ChatGPTの出力では、パスカルの賭けとラパマイシンの説明や利点/欠点を要約し、最終的にラパマイシンを服用するかどうかの結論を記した。以下、ChatGPTの出力の一部を抜粋する。

One potential benefit of taking Rapamycin is that it has been shown to have anti-aging effects in animal studies. Rapamycin is an immunosuppressive drug that is commonly used to prevent transplant rejection, but it has also been shown to extend lifespan and improve health in mice and other animals. These effects are thought to be due to its ability to inhibit the activity of a protein called mTOR, which is involved in the aging process.

ラパマイシンを服用する潜在的な利点として、動物実験でアンチエイジング効果が確認されたことが挙げられる。ラパマイシンは、移植の拒絶反応を防ぐために使われる免疫抑制剤だが、マウスなどの動物で寿命を延ばし、健康を増進させることも確認されている。これらの効果は、老化プロセスに関与する「mTOR」と呼ばれるタンパク質の活性を阻害する作用によるものと考えられている。

Given these potential benefits, it could be argued that, from the perspective of Pascal’s wager, it is in an individual’s best interest to take Rapamycin. Even if there is some uncertainty about whether the drug will be effective or not, the potential rewards for taking it (e.g., improved health, extended lifespan) are significant, while the potential drawbacks (e.g., side effects) are minimal.

これらの潜在的な利点を考えると、パスカルの賭けの観点から、ラパマイシンを服用することは有益の可能性がある。薬の効果について多少の不確実性がある場合でも、服用による潜在的な報酬(例:健康の改善、寿命の延長)は大きく、潜在的な欠点(副作用)は最小である。

On the other hand, it is also important to consider the potential drawbacks of taking Rapamycin. Like any medication, Rapamycin can cause side effects, including nausea, diarrhea, and infections. In addition, long-term use of the drug can potentially lead to other health problems, such as high cholesterol and increased risk of developing diabetes.

一方、ラパマイシンを服用することで起こる潜在的な欠点も考慮することが重要である。ラパマイシンは吐き気、下痢、感染症などの副作用を引き起こす可能性がある。さらに長期使用は、高コレステロールや糖尿病の発症リスクの増加など、他の健康問題につながる可能性がある。

Given these potential drawbacks, it could be argued that, from the perspective of Pascal’s wager, it may be more beneficial not to take Rapamycin. Even if there is some uncertainty about whether the drug will be effective or not, the potential drawbacks of taking it (e.g., side effects, long-term health problems) are significant, while the potential rewards are minimal.

このような潜在的な欠点を考えると、パスカルの賭けの観点からは、ラパマイシンを服用しない方が有益な可能性もあり得る。薬の効果について多少の不確実性がある場合でも、服用による潜在的な欠点(例:副作用や長期的な健康問題)は大きく、一方で潜在的な報酬は最小である。

In conclusion, the decision to take Rapamycin or not is ultimately a personal one, and it will depend on an individual’s values and priorities. From the perspective of Pascal’s wager, taking Rapamycin could potentially provide significant health benefits and extend lifespan, but it also carries the risk of side effects and long-term health problems. Ultimately, the decision should be made in consultation with a healthcare provider, who can provide guidance and advice based on an individual’s specific situation.

ラパマイシンを服用するかどうかは、最終的には個人の判断であり、個人の価値観や優先事項に依存する。パスカルの賭けの観点から、ラパマイシンの服用は大きな健康上の利益をもたらして寿命を延ばす可能性があるが、副作用や長期的な健康問題のリスクも伴う。最終的には、個人の特定な状況に応じて指導や助言が可能な医療従事者と相談しながら決定する必要がある。

Source and Image Credits: ChatGPT Generative Pre-trained Transformer and Alex Zhavoronkov. Rapamycin in the context of Pascal’s Wager: generative pre-trained transformer perspective



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