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国がスマホの「サイドローディング」を義務化したい理由 内閣府の担当者に直接聞いてみた(2/4 ページ)

» 2023年08月22日 12時30分 公開
[佐野正弘ITmedia]

看過できないOS事業者の支配力、対処には従来にない規制が必要

 成田氏によると、デジタル市場競争会議ではサイドローディングだけでなく、スマートフォンを軸としたモバイルのエコシステム全体に関する公正競争の実現に向けた議論をしてきたとのこと。モバイルの世界ではOSを提供する事業者が実質2社と少なく、少数の事業者がアプリストアやブラウザなど複数のレイヤーにわたってアプリやサービスを提供している状況にある。

 それが魅力的なアプリを呼び込み、利用者が増えることで2社のエコシステムに参加する事業者が増えて、また利用者が増る……という好循環を生み、市場で強大な影響力を持つようになった。だがそれだけに、プリインストールするアプリや検索エンジン、アプリストアのルールなど、さまざまな部分でOSを提供する事業者の影響力が強くなってしまい、モバイルのエコシステムでビジネスをするアプリ開発者など外部の事業者が、公正に競争できる環境を確保できない状況にあるという。

モバイルのエコシステムはOSを提供する少数の事業者が複数のレイヤーにまたがって影響力を持つことで、好循環を生み支配力が強くなった一方、他の事業者には多くの障壁をもたらしている

 にもかかわらず消費者には好循環の部分しか見えていないのでそうした問題が分かりづらく、支持を得にくいことから市場での自浄作用は困難だとする。実際アプリ開発者から長年不満が挙がっていたアプリストアの手数料に関する問題は、2020年に大手ゲームメーカーのEpic GamesがApple相手に開戦。

 Epic Gamesは人気ゲーム「フォートナイト」のスマートフォン版に、App Storeなどのルールに反して独自の決済手段を導入。Appleはこれを削除。これらをきっかけに2社で訴訟合戦を繰り広げるという“捨て身”の取り組みによって、ようやくクローズアップされるに至っている。

 成田氏はそうした現状が、世界的にも非常に深刻な問題として捉えられていると説明。開発者の視点からすればアプリの手数料が不透明で高いことだけにとどまらず、コンテンツの表現が海外の特定企業に委ねられていること、そしてデジタル分野で国内のスタートアップを育てる上でフェアな競争環境が得られていないことなど多くの問題があるという。

 また消費者の視点からしても気が付かないうちにOS提供事業者が提供するサービス以外の選択肢が失われ、いつの間にか高い物を購入させられることにつながるとのこと。「問題が看過できないところに来ているからこそ規制の必要性が出てきている」と、成田氏は訴える。

 ただモバイル市場は事業の変化スピードが非常に速く、独占禁止法などで後から調査し、規制をしてもスピードに追いつかないという。そこで成田氏は従来とは異なる規制のアプローチが必要と説明、事前に一定の行為を禁止したり、義務付けをしたりする「事前規制」と、政府と事業者とが連携しながら透明性のある規律を作っていく「共同規制」の2つを使い分けながら対応するというのが政府の方針であるという。

 そして一連の議論で規制が進められたのはアプリストアの問題だけでなく、iOSのブラウザエンジンが「WebKit」のみに制限されている問題や、Google検索で競合の地図サービスの結果が表示されない問題など多岐にわたっている。だが反対の声が非常に多いこともあってか、とりわけiOSのサイドローディング義務化が大きくクローズアップされ、高い関心を呼んでいるようだ。

モバイルプラットフォームに従来の規制では対応が難しいことから、「事前規制」と「共同規制」の2つを使い分けて対応していくとのこと

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