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100年前のフィルムが「8K+AI」で生々しく 関東大震災に迫る「NHKスペシャル」制作の裏側(2/3 ページ)

» 2023年09月02日 19時00分 公開
[ITmedia]

 フィルムを8Kスキャンと聞くと、詳しい読者なら「フィルムにそこまでの分解能はあるのか?」と疑問に思う方もいるだろう。木村氏も「もともと(フィルムから)たくさんのものが読み取れるとは思っていなかった」という。

フィルムをスキャンする様子(写真:NHK提供)

 しかし、「8K化してみたら『こんなに小さなところでも、よく見るとここで人が避難していた』というのがつぶさに見えてくる。やってみないと分からなかった。本当の8Kよりは荒いのかもしれないが、それでも十分な情報量を持っていた」と語る。しかも、8Kで高精細化してカラーを載せるととても色乗りが良いことも判明したという。これは他の白黒フィルムのカラー化にも使えるワザかもしれない。

 カラー化はNHKの放送技術研究所が開発したAI技術を使ったものを採用した。AIを使った白黒動画のカラー化は、昨今複数出てきているものの「意図した色の塗り分けができなかったり、全体的に中間色になりがちでコンテンツ制作になかなか向かない」という。それに比べて、NHK技研のものは専門家の考証のもとに決めた色を確実に反映できるという特徴を持っていた。

 ただし、AIだけで完璧な仕上がりにはならず、人の手も多く加わっている。「カット内の数フレームをまず人の手で色を付けて、その他のフレームをAIが着色した。ただし、それだけだと細部に色が乗らない場合もあるので、そこは人の手を加えた」「全ての映像の白黒部分が『この色だ』と分かっているわけではないので、専門家にご協力いただき、当時の絵葉書や服装の資料、建物の資料などを集め、それぞれ考証しながら色の修正をかけている。AIと人間の力を融合させて色付けした」とのこと。フィルムのカラー化は関連会社のNHKアートが担当した。

高解像度化+カラー化を施す前のもの(写真:NHK提供)
8Kスキャン+カラー化を施したもの(写真:NHK提供)

 なお、国立映画アーカイブに保管されている当時のフィルムは20本ほどだが、マスターではなく記録映画と呼ばれるもの。「当時撮影したのは数人のカメラマンといわれていて、トータルで5時間分。そのフィルムからさまざまな記録映画が当時作られた。それが20本ほど残っている」「当時出たての映像を数人のカメラマンが決死の覚悟で撮りに行き、それが今の時代に35mmで残っている。さまざまな形で『よくぞ残してくださった』というものを、わたしたちが100年後だからこそできる手を加えた」(木村氏)

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