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スマホでの録音を無効化するツール、中・米の研究者らが開発 部屋内での会話を収録不可にInnovative Tech

» 2023年10月10日 08時00分 公開
[山下裕毅ITmedia]

Innovative Tech:

このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。

Twitter: @shiropen2

 中国の浙江大学や米マサチューセッツ大学アマースト校などに所属する研究者らが発表した論文「Cancelling Speech Signals for Speech Privacy Protection against Microphone Eavesdropping」は、マイクによる録音を無効化する手法についての研究報告である。この手法を用いると、隠し持ったスマートフォンや録音機で録音しても、その部屋での会話を収録することはできなくなる。

声を消してノイズを追加することで、盗聴を難しくする

 スマートフォンや音声アシスタントのようなデバイスは、盗聴のリスクを増加させている。この問題への対策として、超音波マイクジャマー(UMJ)がある。UMJは、人間の耳には聞こえない超音波を利用してノイズを生成し、そのノイズをマイクに注入することで盗聴を防ぐ。この手法を用いれば、不正者は混入されたノイズがある録音から情報を簡単に取得することは難しい。

 しかし、現行のUMJはまだ完全ではない。マイクに加えられるノイズは、話している音声とは異なり、このノイズは音声信号とは独立している。そのため、特定の技術を持つ不正者は、このノイズを除去し、元の音声を復元できる。ノイズ除去技術を使用すると、録音からの言葉の約75%を認識することができたと報告がある。

 この研究では、UMJを向上させる新しい手法「MicFrozen」を提案する。この手法は主に2つのアプローチで構成している。1つ目は、マイクが捉える音声を弱化する方法である。具体的には、話される音声と逆のフェーズを持つ反音声信号を生成し、それにより実際の音声を打ち消す効果を狙う。

 2つ目は、本来の音声を隠すために特別なノイズを導入するアプローチである。このノイズは独自に設計されており、不正者によって容易に除去されないように工夫されている。音声信号を打ち消し、除去が難しいノイズを追加するこれら2つのアプローチにより、敵のマイクでの信号対雑音比(SNR)を大きく低下できる。

音声信号をキャンセルするための反音声信号を生成

 低コストの市販部品を使用してMicFrozenのプロトタイプを製作し、商用マイクによる評価を実施した。詳しい評価の結果、敵が最先端のノイズ除去技術を使用しても、MicFrozenによりSNRは-13.6 dBと低く、音声信号の96.9%が敵によって認識できないことを確認した。

実験時のセットアップ

Source and Image Credits: Ming Gao, Yike Chen, Yajie Liu, Jie Xiong, Jinsong Han, and Kui Ren. 2023. Cancelling Speech Signals for Speech Privacy Protection against Microphone Eavesdropping. In Proceedings of the 29th Annual International Conference on Mobile Computing and Networking(ACM MobiCom ’23). Association for Computing Machinery, New York, NY, USA, Article 36, 1-16. https://doi.org/10.1145/3570361.3592502



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