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困難だった“食べ歩き用プリン”開発 ChatGPTに解決を託した、とある乳製品メーカーの話 【プロンプト実例付き】(1/2 ページ)

» 2023年11月07日 12時14分 公開
[松浦立樹ITmedia]

 AIチャット「ChatGPT」と一緒に、“食べ歩き用プリン”を開発した──乳製品メーカーの山村乳業(三重県伊勢市)は10月30日、そんな発表をした。「山村ぷりんバー」と呼ばれるこの商品は、まるで棒付きアイスのような見た目だが、中身は正真正銘のプリン。「ただ棒を刺しただけでは?」と思うかもしれないが、その開発は困難であったという。

“食べ歩き用プリン”こと「山村ぷりんバー」

 開発のきっかけは「人気があるものの、食べ歩きには向かない」というプリンが抱える問題を解決するため。容器に入れず、片手で食べられる形を検討し、“棒に刺す”にたどり着いた。しかし、そのまま刺すだけでは棒からプリンが落ちてしまい、安定させるためにゲル化剤を加えると、滑らかな食感が損なわれてしまう。これを解決するために、同社が目を付けたのがChatGPTだ。

山村乳業が従来販売していた「山村ぷりん」シリーズ スプーンで食べるため食べ歩きには向かなかった

ChatGPTを物理学のアドバイザーに

 食感を担保しつつプリンの安定性を実現するには、棒の形や材質、棒に刺すプリンの形・硬さなどを検証する“物理学視点のアプローチ”が必要になる。このアプローチの最適解を探すため、物理学監修のアドバイザーにChatGPTを任命した。

ChatGPTと共に“棒付き”にする方法を探求

 活用例としてプロンプトには、プリンや棒の長さや重さ、比重などのパラメータを指定。シチュエーションには「物体の中央を貫く形で棒を刺します。刺した状態で、その棒を地面に対して45度の角度で静止させる」などと設定した。この前提条件を与えた上で「棒が物体を貫かない硬さを教えてほしいです」などの質問を重ね、最適解を作り上げていった。

入力したプロンプトとChatGPTの出力例

 同社は「模範回答がいきなりアウトプットされるわけではなかったのでさまざまな試行錯誤をした」と説明。「前提となる条件をなるべく細かく提示」「見当違いの回答の場合は誤りを正す」「果たして正解なのか不明である場合、異なる聞き方で同じ質問する」「最適解っぽいものを人為的にピックアップ」などのフローを繰り返し、最適解を作り上げていった。

 「最適解を作り上げる過程は、事前に仮説として立てていた物理学視点のアプローチを裏付けるための作業であり、抜け漏れがないかを探す作業でもあった。実際、ChatGPTの指摘の中には『食べ歩き環境下での振動によりプリンが変形し、棒との摩擦が少なくなる瞬間がある』というものがあった。これによってプリンが棒から抜けてしまう可能性もあり、この点をケアする意味でも一定の硬さが必要というのは当社としても盲点であった」(同社)

 最終的にChatGPTが出した意見として「プリンと棒の接触面積」「プリンと棒の支持面積(体重を支える面積)」「プリン本体の形状」「プリンの剛性(物体が変形しない力)」などを参考に、プリン本体の形状(縦×横×高さ)や棒の形状(縦×横×高さ)を決定。半年の開発期間を経て、11月1日から山村ぷりんバーの販売を始めた。

 「商品開発の際には、大きさの違う6種類のアイスの木の棒を試したり、プリンの大きさも変えたり、十数回試験を繰り返した。逆を言うと十数回で済んだのはChatGPTで物理学の視点を特定できていたので、無意味な検証をしなくて済んだ」(同社)

ChatGPTは新商品開発に有効か?

 今回、新商品開発にChatGPTを導入した感想として同社は「思ったような成果が出た」とし、AI活用の有効性を感じたという。「一筋縄にはいかなかったが、要所の特定に貢献したと思っている。また『本当にこれでいいのか?』『もっといい方法はあるのではないか?』と悩みながらやるよりも精神衛生的にも良かった」と話す。

 また、地方の中小企業では専門性の高い人材は限られているが、今回のようにChatGPTを“物理学の監修”として役割を与えて利用することで、専門性を調達できる場合があるとも指摘。「膨大な情報から最大公約数的な解を出すには使い勝手がいいと感じた」という。

 なお、山村ぷりんバーの開発時に利用していたのは、無料で使える「GPT-3.5」版だった。そして現在、同社では今後発売予定である新商品の開発にもChatGPTを活用しているという。山村ぷりんバーの成果から、今回は有料版である「GPT-4」に切り替えたとしている。

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