このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。
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東京大学に所属する研究者らが発表した論文「聖剣を継ぐ者 - 集中の証明 -」は、フィードバックされた集中力を用いて祭壇に埋まった聖剣を抜くというVR体験を提案した研究報告である。体験者にはVR HMD(ヘッドマウントディスプレイ)や脳波計測デバイスなどを装着させ、マルチモーダルに集中力をフィードバックすることで、腕力ではなく集中力を高めて聖剣を抜く体験を提供する。
剣型デバイスはグリップ、ガード(剣の柄部分)、ブレイドで構成されている。ブレイドはケーブルでモーターに接続され、ケーブルとモーターは台座で覆われている。使用前はブレイドが台座内に収納されており、力任せに抜こうとしてもモータートルクにより抜くことはできない。一方で、集中している際はモーターがケーブルを緩め、30cm程度引き抜くことで「剣が抜けた」状態になる。
剣自体にToF測距センサーを取り付けているため、実世界とVR空間の剣の座標が同期されている。グリップに内蔵の振動モーターは、体験者に振動による触覚刺激を提示。集中力の度合いに応じ、手のひらへの触角刺激の度合いを変化させている。剣のガードにはファンが設置されており、剣を抜いた際に風を感じることで、成功体験を強化している。
体験者は頭部にHMD、脳波計測デバイス、ヘッドフォンを装着する。市販の脳波計測デバイスを使用し、さまざまな波形を取得する。HMDは視線情報を取得し、脳波データと組み合わせて集中度を測定する。
HMDでは集中状態に応じて、視覚的に集中感覚をフィードバックする。集中力が高まると、周辺視野がぼかされて挿入部からの光量も変化し、環境がスローモーションになっていく。ヘッドフォンでは集中度に応じて環境音の音量を小さくピッチを遅く変化させることで、集中感覚の高まりを表現する。
このシステムは、リアルタイムにフィードバックされた集中力を高めて祭壇に埋まった聖剣を抜く体験を通じて、体験者が意識的に集中力を高める感覚を獲得することを目的としている。
なお本作品は11/17、18開催のサイエンスアゴラ2023で一般公開され、どなたでも体験できる。
Source and Image Credits: 園山遼馬,旭博佑,小谷七海,正田千宙. 聖剣を継ぐ者 - 集中の証明 -. 第 28 回日本バーチャルリアリティ学会大会論文集(2023年9月)
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