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子ども3人以上での「大学無償化」が“ヘンテコ設計”に感じられるワケ “教育の無償化”がもたらす功罪小寺信良のIT大作戦(2/3 ページ)

» 2023年12月14日 18時30分 公開
[小寺信良ITmedia]

本来なら合格できない子も進学できる「私立単願マジック」

 こうした高校の無償化政策に対して、警鐘を鳴らす教育関係者は少なくない。理由は、私立高校特有の入試制度にある。

 東京都に限らずだいたい全国でも同じような仕組みだと思うが、高校受験には「私立単願」という制度がある。「その高校しか受験しません、合格したら必ず入学します」という確約をして受験する仕組みだ。定員を確保したい私立高にとって、単願で受験した子はなるべく入学させたいので、中学校での評定が悪くなければ合格の確約を出す。

 従って受験勉強したくない子ほど、進学コースのある私立校への単願を希望する傾向にある。自分の偏差値よりも高めの高校でも受かってしまうし、授業料の負担がなくなったことから、親からの反対も少ない。

 高校側も中学校の評定は3年生の2学期までしか見ないので、11月中旬の期末テストが終わった時点で中学校から単願推薦がもらえれば、合格はほぼ決まる。多くの子が受験シーズンに入るなか、遊び放題となる。

 15歳の子どもが4カ月も遊び呆けたあと、高校に入ってさあ気持ちを入れ替えて勉強するぞと切替ができるだろうか。中堅の私立進学校に合格したにもかかわらずそのまま遊び続け、学力はずっと低空飛行のまま3年間過ごすことになる。当然大学に進学できるほどの学力はなく、「高卒」といえるほどの知見も得られず、社会に出てくる懸念がある。

 以前であれば、勉強が嫌い、学業がふるわないと言う子は、実業系の公立高校へ進学して、資格や免許など何らかの「手に職」を身につけて社会に出て行ったものである。それが私立進学校に行ったものだから「手ぶら」で卒業だ。就職も難航するとなれば、その先の人生設計も立てられない。

 こうした「私立単願マジック」は、勉強したくない子と、定員を確保したい私立高の利害関係が一致したことから起こる。学費の高い私立進学校は、公立校よりレベルの高い教育が受けられるとして、親も無理して学費を払いながら通わせるものだった。だから子どもにはガンガンに勉強させる。だが誰でも潜り込めるのであれば、その意義は崩壊する。

 経済的事情から断念せざるを得なかった、高い教育が受けられるようになるというのは、素晴らしいことだ。その施策にうまくハマる子もいるだろう。その一方で、子どものためにはならない「私立単願マジック」には、なんらかの制限は加えるべきだろう。

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