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AIを使った“利益を出す馬券”の買い方とは? はこだて未来大の准教授がAIによる競馬予想法を指南Innovative Tech

» 2024年02月13日 08時00分 公開
[山下裕毅ITmedia]

Innovative Tech:

このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。

Twitter: @shiropen2

 情報処理学会が会員向けに月刊で発行する学会誌「情報処理」の2019年1月発行分(60巻2号)で「情報学者が競馬予想に踏み出すときに知っておくべきこと」と題した解説記事が掲載された。公立はこだて未来大学の寺沢憲吾准教授が、AIを活用して利益が出る馬券を買うために考慮しなければならない競馬予想に関することが記されている。ここでは、その内容を簡潔に紹介したい。

学会誌「情報処理」(60巻2号)の「情報学者が競馬予想に踏み出すときに知っておくべきこと」ページの一部切り抜き

 馬券には多様な賭け方が存在するが、ここでは単勝式を中心に説明している。単勝式の馬券は、どの馬が1着になるかを当てるもので、予想が的中すれば購入金額×オッズ(倍率)の払い戻しが行われる。オッズはパリミュチュエル方式(公営競技における配当方法の1種)に基づいて計算され、馬券の総売り上げから一定率(20%)を控除した後、的中者に案分される。

 この方式では、馬ごとの売り上げ額に応じてオッズが変動する。例えば、総売り上げ額に占めるその馬の売り上げ額の割合が50%ならばオッズは1.6倍となり、1%ならばオッズは80倍に。オッズは競馬ファンの集合知によって形成されるが、馬券発売直後はゆがみが生じることがあるものの、徐々に修正され適正なオッズに収束する。この修正プロセスには多くの競馬ファンが関与し、オッズを見ながら購入を決定している。

2014年6月〜2018年10月までに中央競馬で行われた全競走のオッズ別に集計した出走馬数と勝馬数と、その割合を示した図。オッズ×勝率=回収率

 日本ではこの方式が採用されているため、AIを用いた競馬予想では、単に最も勝つ確率が高い馬を求めるのでなく、全出走馬の勝つ確率を正確に算出し、各馬のオッズに掛けて期待値を求めることが必要である。期待値が1.0を超える馬券を購入することは、利益(回収率)を得るための戦略となる。しかし、競馬では全く同じレースが複数回行われることはなく、勝つ確率を高精度で見積もることは困難である。

 考えられる戦略の一つは、競馬ファンの集合知によって決まるオッズを利用することである。具体的には、集合知との乖離(かいり)を見つけ出すことが重要であり、集合知により形成したオッズと「自分で算出した勝つ確率」との差を探ることが、利益を得る鍵となる。

 例えば、集合知がある馬の勝率を10%と見積もり、自分の評価では15%と判断した場合、その乖離を利用して馬券を購入することが長期的に利益を得る方法である。ただし、集合知に基づくオッズは非常に正確で、これを上回る予想を立てることは容易ではない。では、どうすればこの手ごわい集合知を上回る勝率を算出することができるのか。3つの方法が紹介されている。

オッズを超える勝率を算出する3つの方法

 まず、オッズのゆがみを見つけることである。馬券のオッズはファンの集合知によって形成されるが、人力による修正のタイミングによってゆがみが生じることがある。

 特に、組合せが多数に及ぶ複雑な賭け方、例えば3連単では、集合知によるオッズの修正が追い付かないことがあり、ゆがんだオッズが適正なものに収束しないまま発売終了時刻を迎えることがある。このようなゆがみを検知し、期待値が1.0を超える組合せを発見するAIシステムを作れば、集合知を上回る予想が可能となる。

 次に、他者が注目していないデータを利用することも有効である。多くのファンがデータや事前情報に基づいて馬券を購入しているため、これらのファンが見落としている要素、例えばパドックから当日の馬の体調を判断して予想に反映させることは有効である。AIで画像解析して馬体診断すれば、より正確な他者が注目していないデータが得られ、集合知を上回る予想が可能となる。

 最後に、人間の犯しやすい誤りを理解し、これを検知することも有効な戦略である。馬のことを考えるのではなく、オッズを形成する人間のことを考えるのである。例えば、メディアからのコメント情報に流される人間心理などがある。人間や集団が特定のパターンで誤りを犯しやすいため、これらの誤りを利用して集合知による誤った確率と真の確率との乖離を見つけ出すことができる。

 このように、競馬予想で利益を出すためには、勝つ確率の見積もりと集合知の乖離を見つけることが重要であり、それらはオッズのゆはみや馬の実際の体調や人間をよく知ることで探せる可能性を示した。

 ここで重要なのが、もし成功した手法を開発しても、その手法を公開しないことだ。公開すると、その情報は集合知に組み込まれ、オッズが修正されて期待していた乖離がなくなってしまうからである。

Source and Image Credits: 寺沢 憲吾. 情報学者が競馬予想に踏み出すときに知っておくべきこと. 情報処理学会 情報処理, 60巻2号2019-01-15



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