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マグロ、ワイン、日本酒……AIが目利き 「10年以上かかる」職人スキルを深層学習で再現(1/2 ページ)

» 2024年02月13日 12時22分 公開
[産経新聞]
産経新聞

 各業界で人手不足が深刻になっているが、特に高いスキルを持つ人材の不足が企業にとって大きな課題となっている。日本では「経験」と「勘」に基づく言語化できないスキルが多くの仕事で重用されており、断絶の危機にひんしているものも少なくない。そこでAIなどを活用してベテランのスキルを再現したり、若手に伝承したりする取り組みが進んでいる。昔ながらのアナログなスキルをデジタル技術が支える時代が到来しつつある。

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数秒で品質を判定

 スマートフォンでマグロの断面を撮影してからわずか数秒。AIが「縮れ」や「焼け」、「脂」などのマグロの味を決める要素を読み取り、ランク(品質)を表示する。電通が開発したマグロ目利きAI「TUNA SCOPE」(ツナスコープ)だ。

 世界各地で水揚げし、冷凍されて送られてくるマグロは、切断した尾の断面で品質を見極める目利きが重要になる。わずかな情報からマグロ全体の味を予測するのは非常に難しく、10年以上の経験が必要とされる。目利きのスキルを持った人材は大手水産加工会社でもわずかしかおらず、安定した品質で消費者に届けるのは容易ではない。

 「スーパーで買ったマグロに当たりはずれがあるのがずっと気になっていた」。電通でツナスコープのプロジェクトリーダーを務める志村和広氏はきっかけをそう話す。

 日本有数のマグロ水揚げ高を誇る静岡県の焼津(やいづ)港などで断面の写真を収集し、35年のキャリアを持つベテラン目利き職人が5段階で品質を評価。そのデータをディープラーニング(深層学習)でAIが独自に解釈し、目利きの習得に成功した。

 ツナスコープの目利きは現在、メバチマグロとキハダマグロの2種類に対応しており、精度は90%を超える。導入した山形県鶴岡市のスーパー「主婦の店」では、AIマグロの特設コーナーで販売したマグロへのクレームがほぼゼロになったという。

 「目利きは日本が長年磨き上げてきた特有の技能。AIを活用することで高級料亭やすし屋だけでなく、スーパーなどで身近にそのすごさを体感できる」と志村氏。海外からの問い合わせも多く来ており、今後対応できるマグロの種類を増やしていく計画だ。

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