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収益目当ての便乗投稿「インプレゾンビ」横行 地震直後にSNSで偽救助要請、大半は海外(2/2 ページ)

» 2024年03月04日 18時57分 公開
[産経新聞]
産経新聞
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目立つ途上国発

 今回の地震後、X上では地震や津波といったキーワードが急浮上。投稿者は話題に便乗して収益を得ようと、地震と全く関係のない投稿にまで、検索目印「#(ハッシュタグ)」とともに、「地震」や「津波」などのキーワードを添えた。

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 こうした便乗投稿者は「インプレッションゾンビ」と呼ばれ、急増している。分配される収益は多くて数万円と高額ではないが、途上国では貴重な収入源になっているとされる。実際、アジアの途上国からも便乗投稿があった。

 40代女性の関係者を装った偽情報の投稿も海外のアカウントが拡散し、キーワードとして「SOS」「能登地震」との表記があった。村上氏は「日本語が分からなくても救助を求める投稿だと判断し、文面をコピー&ペーストして投稿したのだろう」と推察する。

 偽情報を巡っては、国も対策を進めるが、政府が事業者に削除を求めると表現の自由を侵害する恐れがあるとの指摘もあり、どう折り合いをつけるかが検討課題となっている。村上氏は「事業者側も同一文を検知したら表示させないなど、投稿をコントロールする仕組みが必要だ」と話した。

有効活用の側面も

 SNSの分析に詳しい東京大大学院の鳥海不二夫教授(計算社会科学)によると、能登半島地震で実際に救助を求めたとみられるXの投稿は数十件程度だった。ただ、救助を求めた投稿が14万回拡散されたケースもみられ、情報を早く広く迅速に伝えられた側面もあった。

 地震発生後、「助けて」や「SOS」「拡散希望」などの単語を含むX上の投稿について鳥海氏が解析したところ、地震当日だけで約17万件あったことが判明。拡散分も含めると全体で約235万件にのぼった。

 投稿内容の大半は地震とは無関係で、キーワードに便乗した「インプレッションゾンビ」も一定数含まれているとみられる。こうした投稿は地震が発生した元日夕方以降に爆発的に投稿・拡散されたが、2日には約100万件、3日には約50万件にまで減少した。

 実際に地震による救助を求めたとみられる投稿は100件に満たなかった。ただ、「生き埋めになった」との投稿が約14万回にわたって拡散され、後に本人から生還できたことが報告されるなど、被害の実情が迅速に伝わる側面もあった。

 鳥海氏は「(救助要請の)情報の中には誤ったものも含まれていたが、全体から見れば極めて多かったというわけでもない。災害時には誤った情報には注意しつつも、SNSを情報発信ツールとして有効に活用することが望ましい」としている。

「情報の質」守る組織の検討を

photo 兵庫県立大・木村玲欧教授(防災心理学)

 災害時に偽情報が広まるのは、あいまいな状況を自分なりに理解して不安を解消し、それを周囲に伝えたいという人間の欲求があるからだ。

 例えば「被災地で今夜、地震が起きる」など、多くの人にとって重要かつあいまいな情報ほど伝わりやすい。能登半島地震では、被害の全容が分からないからこそ、具体的な被害状況や人命にかかわる内容の偽情報が拡散されたのではないか。

 偽情報は、被災地以外に住む第三者の善意で拡散されるため、受け手側はまずは事実なのか疑ってほしい。安易に拡散すると救助活動を遅らせるなどの事態に陥る。

 「災害時は必ず偽情報が発生する」ということを認識し、真偽が定かではない投稿を見たときは、ひとまず落ち着くことが必要だ。

 受け手側の努力だけではなく、平時からSNSを含むインターネット事業者や報道機関、有識者などが連携して「情報の質」を守る組織を作ることも検討すべきだ。偽情報を抑止する力についても早急に考えなければならない。災害は待ってくれるわけではない。

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