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iPS心筋球移植 1年で心不全に顕著な効果 来年にも実用化 慶大発ベンチャー

» 2024年03月08日 15時50分 公開
[産経新聞]
産経新聞

 人工多能性幹細胞(iPS細胞)から作った心臓の筋肉(心筋)の細胞を球状に加工した「心筋球」を、重い心不全患者の心臓に移植する世界初の治験で、移植後1年間の経過観察により長期間の顕著な症状改善効果が確認されたことが3月8日、分かった。実施した慶応大発の医療ベンチャー、ハートシード(東京都新宿区)は「来年にも実用化したい」としている。

 心臓病は、日本人の死因のうち、がんに次いで多く、年間約23万人が死亡。中でも心不全は高齢者を中心に増えており、国内患者数は約120万人と推定されているが、特効薬はない。

 治験は、心筋が壊死(えし)して血液を送る力が衰え息切れやむくみが起こり、悪化すると生命にかかわる虚血性心筋症という心不全の重症患者が対象。

 これまで4人に移植を行ったうち、2022年12月から23年2月に実施した60歳代の男性患者3人が術後1年の経過観察期間が終了。いずれも移植部分の筋肉組織が柔軟さを取り戻し、血液を送り出す機能が最大で2倍以上に改善した。重篤な副作用や生命にかかわるような不整脈はなく、細胞のがん化もなかった。3人のうち2人は日常生活に復帰している。

 同社社長の福田恵一・慶応大名誉教授は、「iPS心筋球移植の安全性と有効性を立証できた。早ければ25年にも実用化したい」と話した。

 移植は、共同研究機関である東京女子医大病院と東京医科歯科大病院で実施。健常者の血液を採取し作製したiPS細胞から作った心筋細胞約1000個を、ひとかたまりの心筋球に加工し、患者1人に計約5万個(細胞数約5000万個)、特殊な注射針で心臓の9〜7カ所に移植した。

 1例目は9カ所、2例目は8カ所に移植し、半年後の段階で、ともに7カ所で収縮する機能が改善。3例目は7カ所に移植し、同じく半年後に5カ所で機能が改善した。その結果、心臓が血液を送り出す力を示す収縮率(健常者は平均約65%)が1年後、1例目は手術前の26%から30%、2例目は17%から2倍超の39%に改善。3例目はほぼ横ばいだったが、移植していない部分の悪化が進んだためという。

 心筋梗塞を起こした心筋細胞数の指標となる物質である「NT−proBNP」も1年後、1例目が血液1ミリリットル当たり1万1471ピコグラム(ピコは1兆分の1)から5150ピコグラムに半減。2例目は5225ピコグラムから684ピコグラムに大幅減少し、重篤な心不全の基準となる900ピコグラム以下に改善した。

 成果は、神戸市で開催中の日本循環器学会学術集会で報告された。治験は全10例の計画で、残り6例を年内に実施する。

photo iPS細胞から作製した心筋細胞を球状に加工した「心筋球」(福田恵一・慶応大名誉教授提供)

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