このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。
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東京工業大学 渡辺研究室に所属する研究者らが発表した論文「Projection Mapping with a Brightly Lit Surrounding Using a Mixed Light Field Approach」は、明るい環境と対象物を明るくフルカラーで投影できるプロジェクションマッピングを両立した研究報告である。
プロジェクションマッピング(PM)とは、物体の形状に合わせて画像を投影し、あたかもその物体の表面に模様や質感があるかのように見せる技術である。PMは没入感が高く、特殊なメガネなども不要なため、多くの人で体験を共有しやすいというメリットがある。
しかし従来のPMには、周囲が明るいと投影画像のコントラストが下がってしまうという課題があった。そのため、PMは暗い環境下で行われることが多かったが、それでは周囲が不自然に暗くなり、拡張現実感としては不完全な体験となっていた。
この研究では、「Mixed Light Field」と呼ぶ新しいアプローチでこの課題を解決することを目指した。具体的には、PMを行うプロジェクターに加え、光線の制御が可能な環境光用の照明システムを用意する。この照明システムはPM対象には当たらないよう制御しつつ、周囲を自然に照らすのである。これにより、PM対象は高コントラストを保ちつつ、周囲は明るく自然な見た目を保つことができる。
自然な環境光を再現するため、研究チームはプロジェクターの前方にインテグラルフォトグラフィベースの照明ユニットを構築した。これだけでは中央部と周辺部で光線密度にばらつきがあるため「Kaleidoscopic Array」と呼ぶミラーアレイをレンズアレイの後ろに配置することで、より高密度な光線場を生成できるように改良した。
さらに、この複雑な光学系を高速かつ正確にキャリブレーションするため、二分探索を用いた効率的な手法を新たに考案した。これにより、PM対象に環境光が当たらないよう、プロジェクターの投影画像を適切に制御できる。
研究チームは、シミュレーションと実機を用いた実験により、提案手法の有効性を検証した。その結果、高コントラストのPMと自然な見た目の周囲環境を両立できることを示した。PM対象も周囲物体も同じ照明条件下にあるかのように自然な見た目が実現できたのである。
この研究成果により、ステージ演出やアトラクション、製品デザイン、化粧のシミュレーション、製造や手術の支援など、さまざまな場面で明るい環境下でのPMが実用化されることが期待される。
Source and Image Credits: M. Yasui, R. Iwataki, M. Ishikawa and Y. Watanabe, “Projection Mapping with a Brightly Lit Surrounding Using a Mixed Light Field Approach,” in IEEE Transactions on Visualization and Computer Graphics, doi: 10.1109/TVCG.2024.3372132.
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