このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。
Twitter: @shiropen2
東京工業大学と青山学院大学に所属する研究者らが発表した論文「動いている人の視線だけを惹きつけるモザイク投影手法」は、動いている人が見るとモザイクがかかったように認識され、止まっている人が見ると通常の画像として認識される視線誘導手法を提案した研究報告である。
公共スペースで歩行者に対して広告を提示する際、目指すのは、その広告の前を素早く通過する間に、立ち止まらせて視線を瞬時に指定の箇所へと導くことである。
この目的のため、研究では動いている人にのみ影響を与え、静止している人には作用しない新しい視線誘導手法を提案している。この手法は、画像の特定部分(目立たせたいエリア)を目立つモザイク模様で分解し、迅速に投影することで実現する。
結果として、動いている観測者にはその部分がモザイクとして認識され、その箇所の顕著性が変化し、視線が自然とそこに導かれる。一方で、静止している人にはモザイクの効果が現れず、通常の画像として認識され広告が提示される。この技術は、人の動きに応じた視線誘導を可能にし、特別な追跡装置を必要としないという利点がある。
この技術では、画像の特定部分を目立たせるために、4色(赤、緑、青、黒)の正方形モザイクで区切り、時間の経過とともにこれらのモザイクの配置が変化するようにしている。
一方で、注目度を変更する必要のない部分は、元の画像を維持するために画素を分割している。これらの処理を施した4つの画像フレームを高速に繰り返し投影することで、静止状態ではモザイクが重なり合うが、運動状態ではモザイク内の正方形要素がずれて知覚されるようになる。
実験は、PCを用いて投影画像を生成し、秒間925フレームの高速カラー投影が可能なDynaFlashという高速プロジェクタを使用して実施された。ユーザー評価では、4人の参加者が歩行中と静止中の状態で映像を観測して感想を報告した。
結果は全員が歩行中に映像の変化を感じ、モザイクの観測や画像の一部が異なって見えるという意見が得られた。これにより、モザイクが観測される部分の顕著性が向上していることを確認した。
提案手法を広告やポスターに適用することで、動いている歩行者や電車の乗客などに対し、広告内の特定の部分を目立たせることができる。さらに、広告が移動している状況、例えばトラック広告にも応用でき、走行中は観測者の注意を引き、停止時には通常の広告として機能する。提案手法の動画はこちら。
Source and Image Credits: 幸谷 有紗, 戛山英高, 浦垣 啓志郎, 宮藤 詩緒, 小池 英樹. 動いている人の視線だけを惹きつけるモザイク投影手法. WISS 2023: 第31回インタラクティブシステムとソフトウェアに関するワークショップ https://www.wiss.org/WISS2023/
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