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一部でスタートした「給与デジタル払い」、一体誰に向けたサービスなのか(1/2 ページ)

» 2024年08月28日 09時00分 公開
[山川晶之ITmedia]

 2023年4月1日に解禁となった「給与デジタル払い」。対応サービスが出ないまま1年が経過したが、ようやく8月9日に、第1号として「PayPay給与受取」が厚生労働大臣から指定を受けた。24年内でのサービス開始を目指すが、先行してソフトバンクグループ10社に勤める従業員を対象に14日から登録を開始している。

「デジタル給与」払いってそもそも何?

 現在、給与は銀行口座への振込が一般的だが、これは1975年に金融機関の口座への受け取りが可能になったことで一般化したもので、98年には証券口座でも受け取れるようになった。今回の解禁は、銀行業ではない資金移動業者の口座でも直接給与が受け取れるようにするものだ。

 といっても、PayPay給与受取で振り込める給与は上限20万円まで。それを超える分は、あらかじめ登録した銀行口座に自動的に送金される仕組みとなる。制度的には資金移動業が扱える最大100万円まで受け取れるが、自主的に上限を抑えている形だ。PayPayは、破綻など何らかの理由でサービスがクローズした場合でも6営業日以内に給与を返却できるよう、三井住友海上火災保険と専用の保証サービスを構築しており、この辺も上限額に影響しているのかもしれない。

PayPay給与受取のアカウントにチャージできるのは上限20万円まで
三井住友海上火災保険と保証サービスを提供

 受け取った給与は、PayPay残高として決済に使ったり、家族や友人への送金に使用したり、PayPay銀行やその他金融機関への送金(金融機関への送金手数料は月1回まで無料)、PayPay証券での資産運用、PayPayほけんなどへの支払いに充てることができる。

 PayPay給与受取を利用するにあたり、雇用する企業側がPayPayと何かしら契約したり、追加のシステム開発を行う必要はない。事前準備として、給与デジタル払いに対応するために必要な労使協定を労働組合、あるいは労働代表者と締結し、企業から制度に関する留意事項などの説明を受けたのち、利用したい従業員が申告する形で同意申請を行う。給与デジタル払いはあくまでも任意であり、銀行振込と並んで給与を受け取るための1つの方法に過ぎない。

追加の契約、システム開発は必要ないという
事前に労働組合や労働代表者と労使協定の締結が必要になる

 給与は「PayPayマネー給与」という形でチャージされる。企業側の負担を減らすため、銀行口座と同じように振り込めるよう、アカウントにチャージするための入金用口座番号(バーチャル口座)が割り振られる。この入金用口座番号を手間なく基幹システムと連携できるよう、PayPayは「奉行クラウド」などを手掛けるオービックビジネスコンサルタントと提携を発表。手書きの必要なく基幹システムとアカウントを連携できるようになっている。

給与は「PayPayマネー(給与)」という形で区別されてチャージされる。銀行口座への送金も可能だ
「奉行クラウド」のオービックビジネスコンサルタントと提携

 制度解禁からサービス提供開始までに1年以上を要したが、バーチャル口座のスキームや専用の保証サービスの開発、振込部分の作り込み、基幹システム事業者との連携の他、給与を受け取る口座とそれ以外の口座を分類する必要があるなど、厚生労働省のガイドラインに沿った細かな要件への対応含め、開発範囲が広かったためとしている。

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