では、ユーザー視点では誰が利用するのだろうか。給与デジタル払いでは当初、銀行口座を持っていない従業員に給与の振込ができる点などがメリットとして語られていたが、PayPay給与受取については、20万円を超えた分を振り込む銀行口座の登録が必須になっている。つまり、何かしらの金融機関の口座をすでに持っている従業員しかPayPay給与受取を利用できない。
となると、「銀行口座からPayPayアカウントにチャージするのと変わらないのでは」という声も出てくるだろう。オートチャージ機能もあるので、残高が足りなくなったら登録口座から自動でチャージすることもできる。
そこで、PayPayがアピールするのが週払いへの対応や、“サブ口座”としての利用だ。即日払いであったり週払いのへのニーズが徐々に増えている一方で、給与振込時の手数料は企業からすると少なくない負担になっている。月に何度も振り込みとなると手数料だけでバカにならない。
PayPay給与受取でもバーチャル口座への振り込みは手数料が発生するものの、PayPay銀行の法人口座→従業員のPayPay銀行口座への振込に関しては無制限で手数料ゼロをうたう。そこからPayPay給与受取アカウントに自動でチャージされるため、従業員からニーズが高まっている「支払いの柔軟化」に使ってもらおうということのようだ。これに加え、最近はスポットワークや副業も増えており、第2、第3の給与受取口座として使ってもらうことも想定している。
ユーザーへの利便性は週払いだけではない。給与受取アカウントに入金された残高は、移動操作なしでPayPay証券のつみたて投資に回すことができる他、おこづかいや生活費など、毎月1回、指定した金額を指定日に自動で送金する「おまかせ振り分け」機能なども利用できる。送金や関連サービスを使ってもらう時に障壁となる「煩雑な操作」を全て自動化できる点もメリットとしてアピールする。
これを便利だと思うユーザーにとってはPayPay給与受取は使いやすいサービスだろう。PayPay執行役員の柳瀬将良氏は対象ユーザーについて、パート・アルバイト向けだけでなく、正社員含め老若男女使ってもらえると語る。先行導入しているソフトバンクグループ10社では、数は非開示なものの想定以上の社員からPayPay給与受取への申し込みがあった他、すでに「3桁の企業数」(柳瀬氏)から問い合わせが入っているという。
PayPayは「支払いからデジタルのお財布になる」(柳瀬氏)という長期的なビジョンを掲げており、銀行も証券も保険も、金融サービスが拡充してきたことから、お金周りをまるっとPayPayアカウントで管理できる構想が実現しつつある。日本の給与は総額231兆円と言われており、約6000万人が受け取っているとされている。その一部分でもPayPayアカウントに入金される仕組みを作ることで、PayPay全体の取扱高も増える。
とはいえ、まだまだPayPayや雇用主側の論理が勝っているように見える。そもそも給与受取アカウントは銀行口座じゃないので利息もつかないし、キャンペーンの展開も現段階では予定していないという。正直、通常のチャージ機能で不便に思っておらず、月1回の振り込みで困っていない従業員からすると何が便利か分かりにくい。「給与の一部が最初から残高にチャージされている」ことでどう便利になるのか、PayPayだけでなくこれから認可を受けるであろう、第2、第3の資金移動業者含め、業界全体でアピールしていく必要がありそうだ。
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