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「給与デジタル払い」の6つの誤解 Pay事業者の狙いは何か(1/2 ページ)

» 2022年11月22日 16時25分 公開
[斎藤健二ITmedia]

 2023年春にも解禁される給与デジタル払い。これまで現金か銀行口座、証券口座に限定されていた給与の支払いが、「◯◯Pay」などの資金移動業者の残高にも可能になる制度変更だ。これまでにない変化で、誤解も出回っている。

 給与デジタル払いの受け皿となることを目指す、資金移動業者であるKyashの鷹取真一社長に聞いた。

Kyashの鷹取真一社長

Q 誰が利用するための制度なのか?

A 「会社員で定期的に一定の給与を受け取っている人が、給与の全額を資金移動業者の口座に入れることは、解禁直後には起きないだろう。即時払いに強いニーズがある、アルバイトやパートタイム労働者が、最初に利用する制度だ」と鷹取氏。

 銀行振込は全銀ネットなど外部のシステムを利用する場合があり、どうしても手数料がかかる。また銀行はAPIの整備も整っておらず、特に振り込みなどを他のWebサービスやアプリから行える銀行はごく一部に限られる。

 こうした理由から、給与の即時払いは難しい状況が続いてきた。一方、ほとんどの資金移動業者は同一サービス内での即時無料送金機能を備えている。この仕組みを使うことで、アルバイトやパートタイム労働者に即時支払が可能になる。

 人手不足が続く昨今、即時払い可能は訴求力があり、求人確保につながりやすいと考えられる。

Q 会社員にとって給与デジタル払いの意味はあるのか?

A 「会社員でも、副業や兼業の報酬を手軽に受け取れる。雇い主はメールアドレスや携帯番号で振り込めるようになる」と鷹取氏。

 実は、今回解禁されるのは給与の支払いで、原稿料や講演料のような業務委託費や、会社員でも小口の経費精算については、現在でもデジタル払いが可能だ。副業の多くは、給与ではなく業務委託の形を取っており、スピーディに報酬が受け取れるデジタル払いは一定のニーズがある。

 例えば、東京オリンピックのボランティアへの交通費相当金の支払いも、Kyashが使われた。KyashだけでなくPayPayなどでも、相手の電話番号を指定して送金ができるなど、銀行送金よりも手軽になるような工夫がされている。

Q デジタル払いが始まると支払い手数料が下がるため、企業が前向きだといわれる。

A 「雇用側の給与の振込手数料が必ずしも下がるわけではない」と鷹取氏。給与のデジタル払いでは、企業の銀行口座からペイ事業者の口座に入金されるわけだが、システム開発などが結局必要になる。

 アルバイトやパートの雇用者にとっては、即時払いが可能になれば求人で有利になるため、給与デジタル払いのために投資をする可能性はある。しかし一般社員に向けては、コスト削減となるほどの違いはない可能性は高い。

 Kyashの場合、ユーザーごとに用意したGMOあおぞら銀行に設けた専用口座に振り込みを行うと、そのユーザーの残高に入金が可能だ。この場合、企業はシステム開発の必要なく給与デジタル払いが可能になるが、手数料は通常の銀行振込と変わらない。

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