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来春解禁 「給与デジタル払い」6つの疑問に答える(1/3 ページ)

» 2022年11月15日 16時00分 公開

 「給与デジタル払い」が2023年の春にも解禁される。これは、従来まで現金あるいは銀行振込に限定されていた「給与支払い」手段に、新たに第3の手段として「デジタルマネー」を加えることを意味する。デジタルマネーとはいわゆる「電子マネー」の一種だが、この場合は主にコード決済などの「スマートフォンを使った決済サービス」を想定している。

資金移動業に登録しているキャッシュレス決済サービスが対象

 労働基準法が定める給与支払い手段は、本来は「現金“のみ”」に限定されており、利便性の観点から時代の動向に合わせて「銀行口座振込」を例外として加えた経緯がある。今回のさらなる緩和では、スマホを使った決済や送金の利用が増加していることを受け、同種のサービスを提供している「資金移動業者」を銀行に次ぐ第3の支払先として規定する。

 この取り組みに対し、SNSなどの反応を見ていると反発や疑念の声が多く見られるが、本稿ではそれら疑問や意見に対してQ&A形式で「給与デジタル払い」についてまとめる。

Q1. そもそも「給与デジタル払い」のメリットって何?

A. 政府的には「支払い手段の幅を増やす(そしてキャッシュレス化を推進する)」という思惑があるが、「雇用主」と「労働者」、そして「給与デジタル払い」導入議論の発端となった「外国人労働者」それぞれにメリットがある。

 まず、「労働者」のメリットだが、スマホ決済であれば日々の支払いにサービスが直結しているため、すぐに給与として振り込まれた残高を現金化せずに使える点が挙げられる。最近でこそATMカード(キャッシュカード)がブランドデビットとして提供される例が増えたため、銀行口座の残高から直接支払いを行えるようになりつつあるが、それをより手軽にしたものと考えればいいだろう。このほか、銀行口座を引き落とし先にしたクレジットカードを利用してのキャッシュレスというのもあるが、未成年など若年層にはやや取得ハードルが高いため、比較的万人が利用できる手段としてのスマホ決済は便利だ。

 次に「雇用主」のメリットだが、スマホ決済事業者の使い方しだいでは「口座振込手数料」を無料にできるため、積極的に活用してくるケースも想定される。個人向けでは1件あたりダイレクト送金で200〜300円(税別)程度の振込手数料だが、労働基準法の規定でこの振込手数料は雇用主の負担となるため、対象となる口座が増えると負担がばかにならなくなってくる。給与支払いや経費精算が月単位だったり、指定日しか受け付けないという状況も、実はこの手数料負担が理由の1つになっている。

 「給与デジタル払い」の場合、労働者のアカウントへの給与振込は雇用主(企業)が持つスマホ決済の口座の残高からの送金で行われるため、銀行口座振込を利用しない。そのため、無料または非常に安価な金額での送金(給与振込)が可能だ。これは雇用主だけのメリットにも思えるが、送金無料になれば「給与の週払いや日払い」も選択肢に入ってくるため、日銭を求める労働者にはメリットとなる。

「給与デジタル払い」における送金の流れ。雇用主から労働者への支払いでの手数料は基本的に無料またはかなり安価となる(出典:厚生労働省)

 問題となるのは外国人労働者だ。もともとは外国人労働者など、銀行口座を持たない人に対してどのように給与を支払い、この手段をデジタル化して利便性を上げていくかというのが「給与デジタル払い」の議論のスタートであり、例えば米国などで利用されている「ペイロールカード(Payroll Card)」の日本版のようなものを検討できないかという話だった。スマホ決済はそのアイデアを補完するものとなり得るが、一方で「2階建て」方式により対象アカウントの運用が厳密化されるため、身分証を用いての本人確認が必須となり、また詳細は後述するが資金移動業者の「100万円を上限とした滞留規制」により銀行口座のアカウントへのひも付けが必須となる見込みだ。

 つまり、当初想定していた「より簡易な受取手段」としての「給与デジタル払い」ではなくなりつつあり、「銀行口座を持てない人でもデジタル的手段で給与を受け取れる仕組み」というよりは、単に「銀行口座とは別の受取口を増やしたもの」という位置付けになっている。

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