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来春解禁 「給与デジタル払い」6つの疑問に答える(2/3 ページ)

» 2022年11月15日 16時00分 公開

Q2. スマホ決済事業者が給与の支払先って信用できるのか?

A. 「スマホ決済事業者」がどのようなものか例を具体的に挙げれば、PayPay、楽天ペイ、ドコモ(d払い)、KDDI(au PAY)などが該当する。さらに加えれば、Kyashや、Googleに買収されたpringなども含まれる。これら事業者は「資金移動業」の登録を行っており、各ユーザーのアカウント内に最大100万円までの資金を滞留できる。また資金移動業の特徴として「アカウントの残高は現金可能」という点が挙げられ、提携行のATMなど(コンビニATMなど)を介して出金が可能だ。

 「PayPay残高で現金化できないものがある」という方もいるかもしれない。例えばPayPayの場合、残高には「PayPayマネー」と「PayPayマネーライト」の2種類があり、現金化可能なのは前者のみだ。後者は一種の「ポイント」と同じような扱いであり、他のユーザーへの送金(ポイント譲渡)はできるものの現金化はできない。PayPayカードなどのクレジットカードで残高の充当が可能なのも後者のPayPayマネーライトの方であり、こうした残高は資金移動業ではなく、「前払い式支払い手段」という別の区分けで管理されている。ゲーム内電子マネーやポイント管理などに用いられる仕組みで、このように日本では法律で電子マネーを“色分け”しており、ユーザーからみると不便で分かりにくいというのが実態だ。

 話を戻すと、今回「給与デジタル払い」の対象となるのは「資金移動業」で管理される残高の方だ。詳細は後述するが、「給与がデジタル払いになると現金を入手できなくなる」という認識は誤りだ。ただ、「預金が(1000万円まで)保護される銀行ならともかく、そんな事業者が本当に信頼できるのか?」という声はあるだろう。免許制で許認可の基準が厳しい銀行に対し、資金移動業は登録制で一定の条件さえ満たしていればいい。預金や労働者保護の観点から政府もこの点は問題視しており、実際の運用にあたっては「2階建て」方式を提案している。

 「2階建て」方式とは、資金移動業を定義している資金決済法の管轄省庁である金融庁の規制を「1階部分」とすれば、労働基準法のバックにある厚生労働省が「2階部分」で追加の規制を資金移動業者に求めるものだ。具体的には、労働者への支払いを確実なものとするため、倒産などを想定した資金の保全を義務付けるほか、現金化を想定した「適時の換金性」、そして不正引き出しの対策や補償を求める。実際にこの「2階建て」規制を受け入れて「給与デジタル払い」の対象になる資金移動業者がどれだけ出てくるか分からないが、少なくとも安全性の観点でいえば「従来の支払いと同等程度は担保される」と考えていいだろう。

「給与デジタル払い」における「2階建て」方式(出典:厚生労働省)

Q3. スマホ決済に給与が振り込まれたら現金化できないんじゃないの?

A. 前項にもあるように、資金移動業者は「アカウント残高の現金化」が可能な点が特徴であり、この点に関しては問題ない。ただし、一般的な銀行などとは異なり、スマホ決済事業者は現金引き出し窓口となるATMを持たないため、何らかの別の手段で引き出し窓口を用意する必要がある。具体的には「銀行口座への送金(そして当該銀行ATMでの引き出し)」「提携ATMの利用」の2種類があり、いずれかの手段で現金化が可能だ。

 スマホ決済で銀行口座をひも付けている人もいるかと思うが、その場合にはそのまま出金先として利用することが可能だ。もしひも付けが行われていない場合、出金可能な銀行口座を登録する必要がある。もう1つの手段として、スマホ決済事業者が特定の銀行との提携でATMを利用可能にしており(セブン銀行ATMなどが典型)、ここを経由しての引き出しが行える。問題は引き出しに際して手数料が発生する可能性がある点で、サービスによっては利用者の利便性を考えて月あたり指定回数内であれば引き出しや送金が無料という特典を付けているケースがあるので、余分な費用を払いたくない利用者はこうした仕組みを活用することになる。

「2階建て」方式における要件の中で、「給与デジタル払い」に対応するスマホ決済事業者は最低でも月1回の無料の現金化手段を用意することが求められる(出典:厚生労働省)

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