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来春解禁 「給与デジタル払い」6つの疑問に答える(3/3 ページ)

» 2022年11月15日 16時00分 公開
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Q4. 今後銀行口座は不要になるの?

A. 最大の問題は「資金移動業者の各アカウントに保持できる残高の上限は100万円まで」という滞留規制であり、この上限を超える場合には速やかに資金を引き出すか、別のアカウントに送金しなければならない。これは資金移動業者の性質が「資金の一時的な滞留場所」という位置付けによる。以前までは、100万円の上限を超えたアカウントに対して各事業者が警告を送って残高を減らすようアナウンスしている程度で済んでいたが、これがいちど給与振込口座となると定期的にそれなりの金額がチャージされるようになるため、おそらくあっという間に上限を振り切ってしまう。

 その対策として「給与デジタル払い」で検討されているのが「銀行口座のひも付け」で、つまり「給与デジタル払い」を利用するためには銀行口座の所持が必須という、ある意味で本末転倒な結果になっている。銀行口座をひも付けておけば、100万円の上限を超えたぶんはすぐに出金ができるため滞留規制は回避できるが、これでは労働者側であえて「給与デジタル払い」を選ぶ理由がない。

 1点、近年のトレンドとして挙げられるのが「銀行口座開設時のマイナンバー提示」で、まだ完全に義務化されていないために要請レベルではあるものの、住民票を持たない外国人や外国在住の邦人には銀行口座開設が難しくなっている。同様に、長引く超低金利の影響を受け、維持費だけかかって利益をほとんど生まない残高の少ない口座や休眠口座からは毎月手数料を徴収する銀行が出始めている。

 休眠口座となりやすい「アルバイトや勤め先の給与を受け取るためだけの口座」の開設は今後厳しくなる可能性があり、1人あたりが所持する銀行口座の数は集約の方向に向かっていくだろう。そのときに、一時的な給与受取口座としての「給与デジタル払い」を活用できる可能性が出てくる。「ことら」という小口送金のサービスが2022年10月11日にスタートし、順次対応銀行を増やしていくことになるが、今後は資金移動業者との接続も視野に入れている。これまで以上に複数の銀行やスマホ決済のアカウント間での資金移動が容易となるため、スマホ決済のアカウントを銀行口座の補完的役割で活用する事例も増えると思われる。

Q5. 給与支払先を無理やり「給与デジタル払い」にされることはないの?

A. これは「給与デジタル払い」の話が出たときにSNSなどで最も言われたことだが、いまだにアルバイトや社員の給与振込先として特定の銀行支店の口座開設を要求し、振込手数料を削減しようとする雇用主が跡を絶たない。「給与デジタル払い」の議論の中で検討会ではこうした強制行為をなくすよう提言しているが、おそらく今後もなくなることはなく、仮に指導が入ったとしても当該事例をつぶすのみで行為そのものは減少しないと予想される。

 自衛手段としては、雇用主によって給与振込先にスマホ決済事業者が指定された場合、自身のメインとなる銀行口座を指定してすぐに資金を移せるようにしたり、前述の「ことら」のような仕組みを使って、支払いの必要のある口座に適時振り分けていく。本来であれば、労働者の手間ばかり増やすこのような施策は愚策でしかなく、より厳しい姿勢でもって対策を練ってほしいところだが、従来に比べれば送金や出金に関するハードルは下がりつつあり、導入当初の混乱時期を乗り切るうえでいろいろ準備しておくことが求められるのかもしれない。

Q6. 給与支払先がスマホ決済になるのはいいとして、税公金や家賃は支払えるの?

A. これに関してもハードルが下がりつつあり、おそらく多くのケースで対応可能になると考える。すでにスマホ決済で独自に税公金の支払いに順次対応しているケースがあり、自身の自治体や契約企業への支払いがスマホ決済だけで完結するという人もそれなりにいるだろう。一方で、家賃の支払いや未対応の税公金支払いで銀行の口座振替を利用しなければならないケースも残るが、今後順次対応が拡大していくだろう。

 10月25日には、国税庁が国税納付のスマホ決済対応を発表。12月1日から「PayPay」「d払い」「au PAY」「LINE Pay」「メルペイ」「Amazon Pay」の6種類が利用でき、「楽天ペイ」も対応予定を発表している。

 また、2023年4月には地方税納付書への統一QRコード導入も控えている。従来、税公金の支払いは銀行窓口やコンビニ払いが主流となっていたが、統一QRコードの読み取りによりスマホ決済からの支払いが容易になる。今後スマホ決済事業者各社が対応を進めることで、税公金の支払いについては現在抱かれているほどの懸念はなくなると考える。

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