衆院選は10月27日の投開票まで1週間を切った。街宣や辻立ちに候補者は汗をかくが、有権者への浸透に関して、近年興隆しているのがインターネット上の動画広告だ。政治や選挙と無関係の動画を視聴中に中断され不快な思いをするのではという懸念もなんのその。綿密に分析されたターゲットへ。狙いは無党派層の掘り起こしだという。
YouTubeで長めの番組を視聴すると、動画を中断して流れる広告映像。衆院選が公示されて以降、各政党は動画開始前や中盤に熱心に織り込んでいる。
「3年前の衆院選の10倍ぐらいに発注は増えていると思う」。情報サイト「選挙ドットコム」を運営し、ネット選挙支援などを行っている企業、イチニ(東京)の高畑卓社長はそう実感を口にする。
従来、政党や候補者を売り込むため利用された手段の1つがチラシのポスティングだった。ただし、チラシのデザインや印刷、投函(とうかん)のための労力など手間と費用がかかる。地方部では広範な選挙区で全戸配布が困難。必ずしも読まれているという保証もない。
風穴を開けたのは平成25年の公職選挙法改正だった。ネット上で、選挙活動はだめだが政治活動は認めると一部解禁された。メリットは印刷などの費用が不要で、一度作成すれば何度でも再活用が可能なことだが、加えて自身の選挙区の有権者を標的にした「ターゲティング広告」が政党や候補者には魅力に映るようだ。
動画広告はIPアドレスや位置情報を元に織り込まれる。年齢や性別といった属性により、興味があると思われるターゲットに広告を出す。健康に関心が高い高齢者なら医療、子育て世代ならば教育といった具合だ。
高畑氏は「有権者から『動画で顔を見たよ』と候補者に声がかかることもある。見てくれるか分からない投函(とうかん)チラシよりもコストパフォーマンスはいいと思う」と分析する。
コスパがいいとされるのは動画サイトのシステムも理由だ。費用がかかっているのに見られていないという状況を招きにくい。
高畑氏によると、動画広告はクリックされるか、30秒間視聴されて初めて、顧客である政党や候補者サイドから10〜20円程度の支払い義務が生じる。途中でスキップされれば支払いはなし。だが、動画サイト運営側のシステムには機械学習機能があるため、「無関心」と判断されると、その後は表示されなくなる。広告効果がある対象にだけ広告が表示される仕組みだ。
「動画広告などネットを見る人に限らず、有権者の多数を無党派層が占める。動画広告はそこが狙いで、そもそも特定の政党を熱烈に支持している層への効果なんて想定していないから」。関係者はそう内情を明かす。
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